vol.26 軽井沢(2)

キノコのスープの底知れぬ旨みに
唸ったまま動けなくなった

店名は漢字で書くと「恵・布・里・古」。サルノコシカケの仲間のキノコの名前だという。

 「無彩庵 池田」と同じ年に六本辻で開店した「E.Bu.Ri.Ko」は、キノコと山菜料理をスペシャリテとしたフランス料理を提供するレストランである。

 オーナーである 内堀篤シェフは、長野県上田市出身で、キノコ料理のスペシャリスト山岡昌治シェフ率いる恵比寿「マッシュルーム」での修行を経て、軽井沢で独立開業し、奥様と二人で切り盛りされている。

オーナーシェフの内堀篤さん。

 「僕にとってキノコは先生です」と語る内堀シェフは、自ら山菜やキノコを採取しに行く。相当の知識を持たれているが、毎回料理をするたびに発見があり、採取しにいくたびに自然の怖さと素晴らしさを教わるという。

赤ヤマドリ茸のスープ。

 そのスペシャリテの一つが、「赤ヤマドリ茸のスープ」である。ヤマドリ茸はポルチーニ茸やセップ茸と同種だが、赤ヤマドリ茸はアジア固有のキノコで、ヤマドリ茸より旨味が濃いのが特徴だという。

 それを冷凍させて一年寝かせてから作ったスープである。

 茶色のスープを、一口飲んで、魔法にかかったように唸ったまま動けなくなった。それほどまでに、旨みが、底知れない。

 森の精が凝縮して、口の中でゆるゆると膨らんでいく。うまい。うまいが、これ以上飲んでは危険だよ、とい割れているような禁断の香りがある。

 「夏にお出しすると、濃すぎてしまうんです」と、シェフがいうほど濃密な味わいである。

 キノコの滋養を凝縮したスープを、森に囲まれたレストランでいただく。

 飲み進むうちに、自分が森の空気と同化するような感覚になる。これも軽井沢という土地にあるレストランならではの魅力だろう。

各種天然キノコのソテー。

 もう一つのスペシャリテが、「各種天然キノコのソテー」である。冷たいフライパンに入れ、60度から70度の温度帯で、じっくりと加熱する。

 その後、強火にしてパセリやニンニクエシャロットのみじんを絡める。

 キノコの余分な水分だけが抜け、味と香りが凝縮した驚異の皿である。

 初夏の盛り合わせは、にんにくの香りがするタモギ茸、セップ茸のような香りと味わいがするマッシュルームのポルトヴェーラ、その歯ごたえたくましさとうまみの濃さに驚くエノキ茸、淡い味わいながら香り高いハタケシメジや舞茸出会った。

 そこに胡瓜の香りがするイワガラミの葉が添えられる。

16席ほどの小さな店。同じ敷地内には、英国スタイルの宿泊施設「旧軽井沢ノースアベニュー」がある。

2017.08.21(月)
文・撮影=マッキー牧元