東京や京都ではなく
現地で食べてこその豊満なうまさがある
続いて、蟹を山芋で包み三つ葉あんをかけた「養老蒸し」、カダイフを衣に使った「カニフライ」を挟んで、本日のメインイベント「蟹のしめ縄蒸し」の登場である。
江戸時代に、囲炉裏の灰の中に蟹を丸ごと突っ込んで焼く料理があり、そのままでは灰がつくので、縄で巻いて突っ込んだ。そのことにヒントを得て考えた、オリジナルの料理法だという。
生きた蟹をしめ縄でぐるぐると縛って蒸す。縄を介して加熱されることで、蟹に優しく火が入る。またしめ縄は、事前に海水に浸けてあるので、塩味がほんのりと蟹に回っていく。
こうして蒸し上がった蟹をいただくと、どうだろう。
蟹は、海中で生きていたみずみずしさをまだ残して舌にしなだれる。
甘みにたくましさとはかなさを含んで、静かに消えていく。しなやかで、無垢な甘みに、うっとりとなる。
最後は甲羅に身を入れて、味噌と混ぜ、「常きげん 山廃純米」を一垂らしして、掻き込んだ。
これは危険な料理です。
最後は蟹鍋に蟹雑炊。蟹の滋味を抱き込んだ米が愛おしい。
こうして食べてつくづく思う。東京や京都ではなく、現地で食べてこその豊満なうまさがある。
蟹は旅をしてはいけない。我々が旅をして会いに行かなくてはいけないのだ。
星野リゾート 界 加賀
約1300年前に高僧が霊峰白山への修行に向かう途中で発見したと伝えられる歴史ある湯で、美人の湯としても知られる山代温泉にある星野リゾートグループの旅館。JR金沢駅から車で約60分、もしくはJR加賀温泉駅から車で約10分。
所在地 石川県加賀市山代温泉18-47
電話番号 0570-073-011(界予約センター) ※9:00~20:00
料金 蟹づくしタグ付き蟹会席 1泊2食付 49,000円~
http://kai-ryokan.jp/kaga/
マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。
Column
マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。
2017.01.08(日)
文・撮影=マッキー牧元