vol.19 山代温泉(石川県)
蟹を食べる前に身を清めなくては
冬の北陸には、ご馳走が待ち構えている。
中でも極め付きが、ズワイガニである。
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世には贅沢な、高級な食材はたくさんあるが、このズワイガニほど食べて後ろめたくなるものはないと思う。
家族よ、友人よ、ごめんなさい。いつか一緒に食べようね。なんて思いながら食べるので、余計にうまく感じられるのかもしれない。
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そのズワイガニを恐れ多くもひとり2ハイ近くいただくことができるコースがあるのが、山代温泉にある旅館「星野リゾート 界 加賀」である。
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冬の加賀温泉駅に降り立ち、宿に向かう。
加賀友禅や水引などの伝統文化が散りばめられた部屋に通され、まずは蟹を食べる前に身を清めなくてはと、湯に向かう。
「美人の湯」とはおじさんには無縁だが、心身も胃袋も浄化されたようで、俄然蟹への戦闘意欲が湧いていくる。
さて「蟹づくしタグ付き蟹懐石」である。
まずは香箱蟹を、その淡く優しい身の味や、内子や外子を味わいながら、盃を傾ける。
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続いて、焼き蟹である。
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炭火で焼かれた蟹たちが網の上で身悶える。殻が焦げて、あたり一面に香ばしい香りが漂いだす。
香ばしさに包まれた蟹の身が、舌の上で甘く爆ぜる。
続いて甲羅を焼けば、味噌がグツグツと沸き立って、いてもたってもいられなくなる。
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味噌を食べ、いや甲羅に口をつけて味噌をすすり、少し残すと、酒を注いで、再び炭火にかける。
蟹味噌と酒が見事にだき上がった「蟹味噌酒」は、もうそれを肴に酒が飲める味である。酒好きにはたまりません。
お次は刺身が登場した。透明な身にかじりつけば、甘い汁がタラタラと唇に溢れ、舌に流れて、顔が緩み放しとなる。
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2017.01.08(日)
文・撮影=マッキー牧元