【WOMAN】
名前を呼ぶとき、呼ばれるとき
どちらも感情が動く瞬間だ
愛情、憎しみ、期待など、私たちは誰かの名前を呼ぶとき、何かの思いを込めている。呼び捨てかあだ名かという違いにもさまざまな感情が貼りつくし、呼びたくても心の中でしか呼べない名前もある。本書に収録されているのは、名前をめぐる10の短篇。
〈名前は子供への最初のプレゼントとはよく言ったもんだね〉と18年前に男と出奔した母親は娘の結婚を前に独りごちる。〈なんで何度も小春に奪われなくちゃいけないの?〉と母親が泣いたのは、息子の婚約者の名前が、自分から夫を奪った女の名前と同じだったからだ。
病院へ中絶しに行ったフリーターは〈「玉緒」って魂を体につなぎとめるヒモのことで、だから命の意味があるって〉と名乗った偽名の意味を知り、決意を翻す。一方で、あえて名前を呼ばなくても日常の多くのコトは済むものだ。「ねえ」「あの」「すみません」。だからこそ、呼ばれたときには、強く感情が動かされるのかもしれない。
『名づけそむ』(全1巻) 志村志保子
母娘の関係や、初恋、女の友情などさまざまなテーマで描かれた、名前に関わる10のエピソード。その陰には、名前にまつわる報われぬ思いもあったことをひっそりとにじませる。多層的な構造と細やかな心理描写によって、読み返すたび、違う感想が湧き上がりそう。
祥伝社 900円
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Column
男と女のマンガ道
男と女の間には、深くて暗い川のごとき断絶が横たわる。その距離を埋めるための最高のツールが、実はマンガ。話題のマンガを読んで、互いを理解しよう!
2016.10.06(木)
文=三浦天紗子