今月のテーマ「夫婦愛」
【MAN】
老老介護の果ての心中事件……それはほんとうか?
北陸F県の火葬場から、白骨化した老夫婦の焼死体が発見された。乗り捨てられた自家用車からは、当日の様子を書き記したメモが見つかり、自宅には遺言書が。2人は自らの意思で釜の中に入り、自ら火を付けて自殺を図った可能性が高い……そんなことが可能なのか? 夫が認知症の妻を長らく支えてきた、「老老介護」の行き詰まりがもたらした悲劇なのか。
物語の入口は、現実にありそうなニュースだ。だが、事件記者が事件のあった里山を訪れ真相を探り始めた途端、時間軸がギュルッと巻き戻る。老夫婦と彼らを取り巻くさまざまな愛のかたちが描き出され、やがて火葬場へと到る2人の選択を、悲劇とは違ったかたちで受け止めることとなる。一緒に生きることは、夫婦になれば誰にでもできる。でも、一緒に死ぬことは、ほとんどの人はできない。それができたならば、「よろこび」かもしれない。恐ろしくも美しい、愛のかたちがここにある。
『よろこびのうた』(全1巻) ウチヤマユージ
前作に当たる中篇集『月光』でも、極限の(夫婦)愛を描き出した著者による長篇ストーリー。老夫婦による火葬場での心中事件は、老老介護で疲れた夫が妻を巻き込んだ犯罪だったのか? クールで幾何学的な背景描写の中に、生臭い人間のドラマが立ち上り感動を搔き立てる。
講談社 880円
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2016.11.06(日)
文=吉田大助