今月のテーマ「トレイン、トレイン」
【MAN】
終電に居合わせた乗客と
彼らを乗せる「終電」のドラマ
全国の鉄道で最も始発駅の出発時刻が遅い終電は? 東京駅発JR中央線各駅停車、25時37分高尾駅着の電車だ。『終電ちゃん』のヒロインは、その電車の屋根に乗っている。いわゆる「擬人化マンガ」とはちょっと違う。強いて言うならば彼女は、「終電の精」。
駅に着いたらホームに降りて、お客さんの尻を叩くのが彼女の仕事だ。酔っ払ってのろのろ動く常連を見つけたら、「康介! 急げよ!! 明日も仕事だろ!」。車内アナウンスでは乗客に活を入れ、「明日は必ずもっと早い電車で帰るって約束しな!!」。ぶっきらぼうな口調だけれど、愛がある。
もしも大雪で山手線がストップし、新宿駅から終電に乗り換えられなくなったらどう感じるだろうか。当事者の気持ちはすぐ思いつく。きっと、イライラしてしまう。でも……山手線からの乗客を乗せられず、家に送り届けることができなかった“終電の気持ち”は? そんな視点変換によって表れたドラマが、涙を誘う。
『終電ちゃん』(既刊1巻) 藤本正二
彼氏と別れ帰る家を失った女、寿退社で明日から通勤電車に乗らなくてもよくなったOL……。今日も「終電ちゃん」は乗客ひとりひとりとあたたかな絆を結ぶ。絵は可愛いが、中身は浪花節の効いた濃厚な人間ドラマ! 新鋭・藤本正二のデビュー作、『モーニング』で連載中。
講談社 570円
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2016.07.06(水)
文=吉田大助