今月のテーマ「親友交歓」
【MAN】
何者にもなれない、なりたくない
そんな自分でも、友達がいれば
太宰治の短篇「親友交歓」は、小学校の同級生だと言い張る男を丁寧にもてなした主人公が、帰り際に耳元でこうささやかれて終わる。「威張るな!」。それとはまったくベクトルは異なるものの、人間存在の不条理、おかしみを教えてくれるのが、大橋裕之の『太郎は水になりたかった』。
ガイコツ頭の中学1年生・太郎は、同級生のヤスシにふっかけられる。家に帰ったらお互い好きな女の子を思い浮かべ、「頭の中でどれだけ長く付き合えるか勝負しよう」と。翌日、やつれた二人が会話を交わす。
「フラれたか?」「一週間で」「じゃあオレの負けだな」「え?」「オレ三日でフラれた」「ヤスシ…」。最後のコマに記された一文はこうだ。「母さん ボクはこのときヤスシとは一生の友達でいられると思ったんだ」。
バカバカしくてどうしようもない日々も、親友と共に過ごせたならきっと、かけがえのない経験に変わるのだ。いや、ホントに!(本当に?)
『太郎は水になりたかった』(既刊1巻) 大橋裕之
クラスの最底辺ボーイの太郎には、母親がいない。父親は、まずいコーヒーを出す喫茶店を経営している。時おり訪れるひんやりした気持ちを、親友のヤスシや、死体ごっこに命を懸ける夏目くん、妄想部の部長のおかしな言動が、キャンセルしてくれる……。「トーチweb」連載中。
リイド社 666円
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2016.03.05(土)
文=吉田大助