今月のテーマ「名前」
【MAN】
「~でさえあれば」を断ち切って
自分の名前を呼べるまで
吃音症を持つ大島志乃の場合、特に母音から始まる言葉が苦手なため、「お」で始まる自分の名前でどもってしまう。クラスメイトに笑われ、無神経な担任から〈名前くらい言えるようになろう?〉と言われ、志乃の高校生活はつらい幕開けとなる。だが、ある偶然から志乃を受け入れてくれる加代という友達ができた。加代もまた、あるコンプレックスを抱えている。加代は、それぞれの弱点を補い合う形で学園祭に向けて音楽デュオを組もうと志乃を誘う。
コンプレックスというのはいわば、風船のようにただ膨れ上がるだけで中身はない。でもそれでパンパンになっていると、やりたいことも本当の気持ちも自分の中には注ぎ込めない。それに気づいた加代や志乃は、ついに人前でコンプレックスの皮を脱ぎ捨て、本当の自分を見せることができたのだ。「私は私」と言えた志乃の名前はそのときひとしお輝いていた。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(全1巻) 押見修造
高校入学初日、自己紹介のための練習までしたのに、派手に吃音症が出てしまった志乃。「喋れないんなら、紙に書けばいいじゃん」と言ってくれた加代と少しずつ打ち解けていくが……。大切な友達と淡い恋心とに挟まれた、ままならない関係。青春のイタ可愛さにきゅんと来る。
太田出版 660円
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2016.10.06(木)
文=三浦天紗子