焼香の手が止まった理由
「色即是空 空即是色――」
徐々に近づいてくる焼香の順番。
スッと視界がひらけ、ようやくHさんの焼香の番になりました。
袈裟に身を包んだ僧侶の向こう、供花に彩られた白い棺にふと目がいきました。
棺の蓋が全部開けられ、寝かせられたご遺体の膝が「への字」に折り曲げられ、棺から飛び出していました。
ご遺体に合う棺のサイズを誤注文でもしてしまったのか? だとしても納棺師ならうまいこと収められるのではないのか。なのに、何故あんな見せつけるようにわざわざ……。
無数の疑問が頭を駆け巡り、気づけばHさんの焼香の手は止まっていたといいます。
はたと気がついた彼は、親族から違和感を持たれてはまずいと、手早く香炉に抹香を振りかけて一礼をし、席に戻りました。
違和感の答えを見つけようとぐるぐると考え続けているうちに式は終わり、参列者がおもむろに立ち上がって遺族に声をかけ始めていたそうです。
この場を早く離れようと、Hさんは遺族の元に歩み寄って声をかけました。
「……◯◯家の息子のHと申します。この度はお悔やみ申し上げます」
「ああ、わざわざどうも。今日はお越しいただけないということだったけど、お父様はお元気でいらっしゃる?」
ご遺族の母親と思しき中年女性が、ハンカチで目元をぬぐいながらそう言いました。
「ああ、父はおかげさまで……。今回は急なことで心中お察しいたします」









