土と水、自然な農法で育まれたお米、微生物の力を活かした調味料、その土地の自然環境に適応する在来種の野菜。今、そういったもともと日本人がつくり続けてきた食品は0.1%以下の流通量になってしまっています。
自然と文化が織りなし生まれた食品を「素の味」と呼び、もう一度、素の味が食卓にあるのがふつうの風景にしていけたらと始まった、会員制スーパーマーケット「Table to Farm」のディレクター・相馬夕輝さんに、日本の素の味を教えていただきました。
今回の話は、豚肉の『素の味』。自由奔放に走り回り、健康に育つ、放牧で飼育されている豚たちについて。 動物性のうまみ成分が豊富な豚肉は、どんな料理にしてもおいしい。そんな豚の『素の味』には、どんな違いが、どんなおいしさがあるのでしょう。
» 家畜の歴史、豚食文化の歴史
» 豚は育つ環境がおいしさにつながる
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» 走る、走る、走る! 実はきれい好きな豚たち
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家畜の歴史、豚食文化の歴史
動物の家畜化は、紀元前1万年ほど前に大陸で始まったとされています。日本語としては「家」に「畜(たくわ)える」ということで、安定した食材供給の意味合いを持ちます。食糧を日々得られる生活への変化は、狩猟文化から農耕文化へと移行した日本人にとっても人類全体にとっても大きな変化だったといえます。
かつて日本では、仏教伝来とともに動物殺生禁忌の風潮があり、家畜は、牛や馬といった動物たちに代表される“働く動物“として畜えられていた側面がありました。日本で主に豚を蓄え、さらに食用としていた地域は沖縄です。歴史的にも、大和国に比して琉球国として独立した国であったこともあり、古くから豚食文化がありました。ラフテー、ソーキ、ミミガーなど、沖縄の料理に豚が多く使われているのがその理由です。
豚は育つ環境がおいしさにつながる
豚の飼育方法にはいくつか種類があります。最も一般的とされているのは、経済合理性の中で生まれた、ほとんど身動きができないまま、立っているか、なんとか寝転がれる程度のスペースで飼育される、ケージ飼い。エネルギーを消費しにくいので成長が著しく早く、餌や場所の効率を非常に高い水準で育てることが可能です。しかし、動物愛護の観点としては大いに問題視され、EU圏では屋内飼育に十分なスペースの確保が義務づけられ、さらに、有機畜産の場合は屋外エリアへのアクセスも義務付けられています。
もう少し飼育スペースが広くなる方法が、豚舎での平飼いです。豚たちが暮らすスペースのケージはやや大きくなり、歩き回ることや、他の豚たちとの接触も。当然、1頭あたりに必要になる面積は大きくなり、実際、国の規定する有機畜産物の基準では、1頭あたりの最小面積は、屋内、屋外ともに1.1㎡(体重が40kgを超えるものに限る)。それでもそんなに広くはなく、自由に歩き回れるほどだろうか......という印象を持ちます。昨今は豚コレラの影響で屋内管理が求められることが多く、広くすれば豚舎に多大なコストがかかるため経済的にも難しい課題だといえます。
もう一つは、太陽の下で走り回りながら飼育される、放し飼い。豚たちは、太陽を毎日浴びながら、泥んこになって走り回る。土壌の中に含まれるミネラルを口にすることもあり、ゆったりのんびり過ごせることが特徴です。
豚たちの健康を思うと、放し飼いが良いのは一目瞭然。僕たちは、試食を重ねて、結果的にこの放牧豚を選ぶことになったのですが、全国からたくさんの候補を選び、取り寄せて、ブラインドで試食をして。とにかく試食を通して商品を選ぶプロセスを大事にしています。最初は茹でただけで比べ、塩をして、豚汁にして、生姜焼きにして......と何度も何度も繰り返します。オンラインで販売をするまでにおよそ11か月もの期間がかかってしまいましたが、だからこそ『素の味』を見つけることができました。
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- 文=相馬夕輝(Table to Farm)
写真=Ayumi Mineoka - keyword










