土と水、自然な農法で育まれたお米、微生物の力を活かした調味料、その土地の自然環境に適応する在来種の野菜。今、そういったもともと日本人がつくり続けてきた食品は0.1%以下の流通量になってしまっています。

 自然と文化が織りなし生まれた食品を「素の味」と呼び、もう一度、素の味が食卓にあるのがふつうの風景にしていけたらと始まった、会員制スーパーマーケット「Table to Farm」のディレクター・相馬夕輝さんに、日本の素の味を教えていただきました。

 今回は、“お米の素”を巡ります。


太陽と土と水が育てる、自然な米づくり

 水田稲作は世界でも主に東アジアや東南アジアなど、温暖湿潤な気候帯で盛んに行われています。一見シンプルに見える水田稲作のメカニズムですが、実は未だ解き明かせない神秘に満ちています。

 中でも特徴的なのが、水田が育む豊かな生態系。水田の土中には、さまざまな動植物からなる有機物と、それを分解する微生物が存在し、多様に連鎖し続ける環境の中で、それぞれの地に固有の土が育まれています。

 田んぼには、水中プランクトンを捕食するタニシやドジョウ、オタマジャクシ、ゲンゴロウ、畔にはイナゴやトンボ、カエルなどさまざまな生き物が生息します。さらに、それらの生物を狙って鳥たちが飛来します。日本の水田にはおよそ6,000種類ほどの生物がいるとされているほどです。

 生物同士が連鎖し、複雑な有機物が土の中に還り、豊かな土壌が生まれていく。そうやって自然から得られる栄養をしっかりと受け、お米自身が植物本来の生命力を持ってすくすくと育っていく。その生命力と味わいを合わせ持ったお米こそが“お米の素”と言えるでしょう。

2025.07.18(金)
文=相馬夕輝(Table to Farm)
写真=峰岡歩未