自然に委ねるからこそ生まれる、おいしいお米

「人が頭で考えるよりも、植物のほうがずっと自然について詳しいのかもしれません」
そう教えてくれたのは、「亀の尾」の発祥の地、山形県庄内地域で、自然栽培の「亀の尾」を育てる荒生勘四郎農場の荒生秀紀さん。江戸時代の農法を研究し、自然の力を引き出す農法を、自ら農学博士となり、自然を観察しながら米づくりを行っています。
「僕は人間よりも自然の方が優秀だと考えているから、自然に任せられるときは任せた方がいいと思うんだよね。だから、僕のやり方は『自分がお米を育てている』よりも『自然にできたお米をいただいている』感覚に近いかな」

荒生さんは、味づくりのための米づくりをしません。稲という植物を見守っているような農業なのです。「自然栽培の農家は暇だから、この暇に耐えられる人しかできない」と冗談混じりに教えてくれます。草刈りは何度もしなければいけませんし、決して暇ではないと思うのですが、私たちが感じるのは、おいしいお米ができることそのものは自然に任せているからね、という解釈をしています。
荒生さんのお米は、体が元気になるお米です。稲も然り、稲の周りにいる微生物、虫、雑草まで、それらの生態環境全体が生み出す自然の味。私たちが口にするものは、それら植物の生命力のバトンタッチを受けているのです。

お米アレルギーはなぜ生まれた? お米本来の栄養
お米は太る、お米にアレルギーを持つ子供が増えている、そんな話を聞くことが増えています。お米に含まれる栄養素の約70%はでんぷん。そのでんぷんにも「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類があります。
亀の尾と旭は、品種改良されていない「うるち米」の純系のため、アミロース含有量が高いお米とされています。アミロースは、消化に時間がかかるため、食後の血糖値の上昇を抑える効果を持っています。
一方で、もちもち食感を出すために品種改良されたお米の多くは、アミロペクチン含有量が多くなるように人工交配されています。アミロペクチンは、体内の酵素の力が弱い人には分解しきれないため、その未消化のタンパク質がアレルギー反応を引き起こす原因になっていると考えられています。太ることやアレルギーといった話は、近代の品種改良の結果、誕生したこととも言えるでしょう。

自然栽培で育てられた「亀の尾」に辿りつく人の中には、お米にアレルギーを持つ子供にも食べられるお米を探してきた、という方が多くいます(もちろん個人差はあります)。こういった情報も適切に広がっていってほしいと思います。
最後に、こうした生命力のあるお米はやっぱり玄米で食べてほしい。米粒は、1粒を植えれば2,000粒になる力がある植物。そのエネルギーは、やはり玄米の胚芽の中にこそ含まれています。すべての自然の恵みを享受することで本当のお米の味に出合うことができるのです。

●Table to Farmが見つけた自然栽培で育てられた在来のお米「亀の尾」

米・亀の尾「佐久間権左衛門」佐久間優さん
15年自家採取をつづける佐久間さんのお米は、香り豊かで複雑な旨味があり、噛み応えとみずみずしさのバランスの良さが特徴。亀の尾ならではの力強さがよりしっかりと楽しめるお米です。

米・亀の尾「荒生勘四郎農場」荒生秀紀さん。
亀の尾発祥地である山形県で2010年から自然栽培・自家採種に取り組む。江戸時代の自然農法を研究・実践している農学博士が育てたお米は、味のバランスが抜群で、ふわっとやさしい香りが特徴です。
●「亀の尾」と同じ時代に食べられていた、「旭・朝日」の生産者たち

米・旭「桑の原農園」桑原宗之進さん
旭の名産地である熊本県球磨郡で長らく有機栽培に取り組み、2016年から自然栽培・自家採種を続ける桑の原農場の旭です。桑原さんの育てるお米は香りが華やかで、滋味深さの先に甘味がそっと残るような味わいが特徴。

米・朝日「ひなたファーム」日向建太さん。
かつての吉備国の中心であった歴史ある岡山県総社市で、自然栽培・自家採種を19年続けているひなたファームの朝日です。あっさりした食味や繊細な香りが印象的な朝日の中でも、日向さんのお米は程良く粘り気のあるモチッと柔らかい食感で、噛むほどにやさしい甘みと香りが広がります。

米・朝日「おがた健康農園」緒方弘文さん
熊本県上益城郡で、自然栽培・自家採種を30年以上続けるおがた健康農園の朝日です。あっさりした食味や繊細な香りが印象的な朝日。中でも、特にクリアな味わいが際立っていて、すっきりした甘さや香りが特徴。「家族の健康のために」と丹精込めて育まれたおいしさです。

米・朝日「Wacca Farm」伊賀正直さん
朝日の栽培が大正期から継承されている名産地・岡山県瀬戸内市で、自然栽培・自家採種を6年続けているWacca Farmの朝日です。あっさりした食味や繊細な香りが印象的な朝日の中でも、伊賀さんのお米は大粒で食感がしっかりしていて、噛むほどに旨味を感じる明るく元気な味わいです。
0.1%の『素の味』があつまるスーパーマーケット
Table to Farm
『素の味』は、自然や歴史、地域性、農法、作り手の生き方まで、魅力的な個性にあふれていて、あなただけの“とびっきりのおいしさ”を見つけるための、道標になってくれると思います。 Table to Farmは、2025年7月25日に会員制のスーパーマーケットとしてオープンを迎えます。今は貴重な食材となってしまっている『素の味』が、あなたの暮らしのふつうになる社会を目指して、まだ見ぬ食文化に出会う旅を、ぜひ一緒に体験してください。
https://tabletofarm.jp/
Table to Farm オープニング特別企画
西荻窪オルガン、紺野シェフによる『素の味」を愉しむ食事会

2025.07.18(金)
文=相馬夕輝(Table to Farm)
写真=峰岡歩未