不倫に走る人妻を熱演…大きな転機となった作品は?

 同時期には、以前その作品に出演していた三島有紀子監督からも「今度は主演で撮りたい」とオファーされています。その作品こそ、元恋人と再会して恋を再燃させる人妻の役を演じ、大きな転機となった映画『Red』(2020年)でした。さすがに役柄が役柄だけに、夏帆は自分が演じるにはまだ早いのではないかと悩んだものの、《三島監督となら、自分も次のステップに行けるんじゃないかなと》思い、引き受けることにしたといいます(『SPA!』2020年2月11・18日号)。監督からは「いままでとは違う夏帆を」と撮影のあいだずっと要求され、彼女もそれに応えたいという一心で演技した結果、俳優として新境地を拓いたと評価を高めました。

 30代に入ってからも、ドラマ『silent』(2022年、フジテレビ系)、『ブラッシュアップライフ』(2023年、日本テレビ系)、映画『違国日記』(2024年)など話題作にあいついで出演しています。

 今年も『ブラッシュアップライフ』と同じくバカリズム脚本のドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)に続き、春には染谷将太と映画館の経営者夫婦を演じた映画『BAUS 映画から船出した映画館』が公開。8~10月に放送された奈緒主演のドラマ『塀の中の美容室』(WOWOW)では、主人公の姉で、妹が罪を犯したために加害者家族になってしまった美容師という、これまた難しい役どころを演じ切りました。設定は現実離れしているとも思えますが、それを夏帆は、妹が受刑者という以外は淡々と日々を送る“普通の人”として演じているからこそ、彼女が心に負った傷、また妹への複雑な思いがリアルに伝わってきます。

「生活の匂いのする女優になりたい」

《生活感を感じられる女優さんは素敵だなと思います。いろんなタイプの方がいらっしゃるじゃないですか。ほんとうに手の届かないような女優さんもいるし。私は生活の匂いのする女優になりたいです》とは、30代を目前にしての夏帆の発言です(『キネマ旬報』2018年10月下旬号)。最近の作品を観ると、その目標に確実に近づいていると思えます。ちなみに素顔の彼女は、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の鮎美と同様、料理をつくるのは好きなほうで、ドラマの現場にも持って行けるときは、おにぎりとスープを持参しているとか。

 20代の頃はとにかく自分を追い込んで仕事をしていた気がするという彼女。しかし、20代も後半になるにつれてその姿勢に疑問を抱き、《もうちょっと現場を楽しみながら、リラックスする余裕を持たないといけないな》と思い始め、30代に入ってからは自分を大切にする考えへと移り変わったといいます(「CLASSY. ONLINE」2025年10月8日配信)。それはまさに『じゃあ、あんたが作ってみろよ』のテーマにもつながっています。彼女自身、《そうした意味でも、きっとこの作品は私にとってターニングポイントになるんじゃないかな》と放送を前に語っていました(同上)。

 最終回を前に、夏帆演じる鮎美は、一旦は別れた勝男から「もう一回やり直そう」と切り出されました。果たして、それに対して彼女はどう答えるのか? たとえどんな答えを出そうとも、きっと夏帆は、視聴者を納得させるだけの説得力ある演技を見せてくれることでしょう。