種継ぎ在来野菜の種は、品種だけにあらず。種を継ぐ農家と共にある文化作物

 長崎県の雲仙に、種を継ぎながらおよそ40年にわたり農業、化学肥料を使わない農業を営む、農家の岩崎政利さんがいます。九州で有機栽培の在来野菜などを流通する金子商店の金子尚生さんにご紹介をいただきました。宮崎から受け継いだ「平家大根」、兵庫の在来野菜保存会から受け継いだ「とっちゃな」、他にも「黒田五寸にんじん」「雲仙こぶ高菜」、F1品種から種継をして雲仙の土地に適応してきた野菜も育てます。

 岩崎さんは、日本各地からその種を守り続けてきた農家の思いや歴史に触れながら、それを僕たちに教えてくれました。

 種は、ただ種だけにあらず。人と共に繋ぎ、暮らしてきた生活の証であり、農家の生き様でもあると感じました。ただ継いでいるだけでは食べてもらえない。おいしくなければ続かないという現実を認識しながらも、それ以上に文化が織りなして生まれた背景においしいさが潜んでいると思えてきました。

 誰かが守り育て、芽吹く喜びや実をつける喜びを感じながら生まれてきた野菜。その中から、また来年、再来年の野菜を思いながら種を残す。時代も環境も激変し変わり続ける社会の中で、未来を思い種を継ぐ仕事が、クリエイティブな仕事でないわけがない。種と人の創造性を僕らは食べることで身体の中に取り込んでいく。未来をつくる力に溢れた野菜が、身体に良い影響を及ぼすに違いないのです。

生命力のある食べ物で、生命力のある身体をつくる

 そんな野菜は、生命力のある野菜、生きる力を与えてくれる野菜だと思います。種は生命の源です。種のないぶどうは、確かに食べやすいですが、そこには次の命を育むエネルギーは含まれていません。

 玄米から胚芽と呼ばれる次の生命を育む種の部分を除いたものが、白米です。胚芽は芽を出し大きくなるために最初に白米部分を栄養にして育ち、根を伸ばし、それから大地の栄養を得ていきます。白米はその芽に最初の栄養だけを与える部分。種を食べること、種をもつ野菜を食べること、種を植えたらそこに次の生命が育まれる野菜を食べること。それはとても大事なことで、だからお米は玄米を食べた方がいいのです。

 新鮮な野菜や栄養が豊富な野菜を食べることはもちろんとても大事ですが、生命力があり次の命を育むものを食べることの大切さも、もっともっと理解されていっていいと思います。

 結果、僕がこの数年、日本中の自然の循環の中で育てられた在来野菜を食べてきて思ったことは、そういう野菜は本当においしいと言うこと。雑草や虫や微生物たちと共生するような環境の中で、有機物をたっぷりと含んだ土壌で、元気いっぱいの野菜が育つ。人間が意図して与える特効薬のような化成肥料では得られない、多様な微量ミネラルや豊富な栄養価がたっぷり含まれています。

 有機栽培の土壌で育った野菜に関する研究結果も多くある。ただ、そんな数値なんて僕からしたらどうだっていい。大事なのは何より、生命力のある野菜が持つ自然な甘みや鮮烈な香りが、電気信号が走るかのごとく身体中をさらっと巡り(まるで、喉がカラカラの山登り中に湧き水をぐいっと飲んだ時のように)、食べるものが身体を作ってくれているのだと深く感じられることなのです。

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