音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!
さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?
【次に流行る曲】
go!go!vanillas「バイリンガール」
ロックがロックらしかった時代の匂いがする
伊藤 go!go!vanillasの「エマ」っていいですよね。曲ってよりはMVがなんか良くて、全然可愛くない女子高生(笑)がバンドサウンドに合わせてダンスしてるんだけど、なんだか雰囲気がキュートでなんども観たくなる動画。
山口 僕も好きでした。ボーカルの声質も好みです。ロック感とポップさのバランスも良い感じだなと思いました。
伊藤 彼らのサウンドはまさにノスタルジー。ロックがロックらしかった時代の匂いがして、もうそんなに若くない世代にもなじみやすい。
山口 そうですね。歌詞がしっくり届いてくる気がします。
伊藤 じゃーなんで今、彼らなの? って感じがするんだけど、若い世代にはこれが新しいのかも。最近のロックは色んな意味で構築され過ぎちゃっているから、ロックってこういうことだっけ? って思う瞬間があるんですよね。でも彼らの音を聴くと、ロックってこういうことだよね! って清々しい気持ちになれます。
山口 ロックの定義は人それぞれだし、いろんな形のロックがあって良いと思うんだけど、僕にとっては、バンドとしてのスリルを感じさせてくれるどうかが大きなポイントですね。そういう意味で、go!go!vanillas は、ライブで聴きたいと思わせてくれるバンド感がありました。
伊藤 同感です。自分の勝手な定義ですけど、“MUSIC15”っていうのがあるんです。15歳の時に聴いた音楽にもっとも影響され、ずっとその音楽を引きずって生きていくことなんです。だから15歳の時に聴いたロックこそが、自分のロック感だと思うんですよ。それもあって個人的にgo!go!vanillasは無視できないロックバンドだし、自分のロック感からいうと“こいつらロックだな”思わせてくれるのが気持ちいい。
山口 なるほど。“MUSIC15”ですか。当たっていますね。僕が大好きなエピソードを紹介します。以前、佐山雅弘というジャズピアニストのマネージメントをしていたのですが、忌野清志郎さんとも交流がありました。二人ともグレン・グールドというクラシックのピアニストが好きで、佐山さんがCDを聴いていて、「素晴らしい。これは、もうジャズだね」って言ったら、清志郎さんが「いやー、これはロックだ」と答えたというんです。演奏しているのはバッハですよ(笑)。客観的にはクラシックです。
伊藤 やっぱ“MUSIC15”ですよ(笑)。
山口 そうですね。彼らにとっては、カッコイイことや、音楽的に素晴らしいことを、ロックやジャズという形容詞で表現するんですね。15歳の感性と言えるかもしれません。自分たちが目指している音楽と本質的に同じだということなのでしょう。クリスチャンがゴッド、ムスリムがアラーと呼ぶみたいに、名前は違うけれど、どちらも神を指している。
伊藤 なるほど。
2015.03.30(月)
文=山口哲一、伊藤涼