ロビン・シックに下された判決の問題点とは?
伊藤 go!go!vanillasに話を戻しますが、今回の「バイリンガール」のカップリングには1972年に発表された泉谷しげるの「春夏秋冬」のカバーが入ってるし、このシングルの収録曲じゃないけど「アクロス ザ ユニバーシティ」って曲にはブラック・サバスとか歌詞にでてくる。平均年齢25歳のバンドにしては随分とオヤジっぽい趣味ですよね。親のCD聴きまくって育ったのかな?
山口 僕が昨年までマネージメントしていたSIONも、デビュー時に「春夏秋冬」を歌っていたのですが、1987年ですよ! 昨年デビューのバンドがやるとはびっくりしました。でも日本人ミュージシャンも過去のアーティストや作品へリスペクトを捧げている姿勢は嬉しいですね。
アフリカンアメリカンのミュージシャンは、先人からの影響をすごく表に出しますよね。カバーをしたり、サンプリングしたり、マッシュアップ的に取り入れることも多いです。
最近、ロビン・シックの「Blurred Lines」がマーヴィン・ゲイの「Got To Give It Up」の盗作だと遺族に訴えられて、裁判で負けて話題になってましたが、あれも、プロデューサーのファレル・ウィリアムスが、マーヴィン・ゲイの作品に影響を受けたと自ら語っていたことが、敗訴につながったらしいですね。
伊藤 あの判決、山口さん的にはどう思っていますか?
山口 僕は法律の専門家ではないので細かくはわかりませんが、おかしな判決だと思います。陪審員裁判の悪い面が出たのではないですか? あれを盗作と定義してしまったら、これまでの音楽の文化とビジネスが壊れちゃいます。著作権の盗作の定義は旋律というのが世界共通認識になっているのに、サウンドの雰囲気まで対象にするのは、あり得ないです。上訴したので、次の判決ではひっくり返ると思いますが。
伊藤 なるほど。
山口 もしかしたら、アメリカの黒人ミュージシャンのコミュニティーの中で、マーヴィン・ゲイに対するロビンとファレルのリスペクトが足らなく見えた、みたいなことが背景にあるのかもしれませんけれどね。不幸な裁判ですね。
それはともかく、アメリカのブラックミュージックと同様に、日本もフォーク、ニューミュージック、歌謡曲、Jポップといった日本のポピュラーミュージックの蓄積を、もっと僕ら自身が評価すべきだなと思います。
伊藤 僕はSIONのカバーした「春夏秋冬」も大好きだったし、go!go!vanillasがカバーしていることも嬉しく思った。良いものは歌い継がれる、これは作り手にとってモチベーションになりますよね。この時代になったって、すべての曲が使い捨てのように聴き流されているんじゃない、そう信じて良い曲を作ってほしいです。さて、この「バイリンガール」はサウンドだけじゃなくって、歌詞にもノスタルジーを感じる。「ドントクライ 土砂降りだけど」なんて歌詞が出てきて、なんだか70年代のバンドみたいじゃないですか。
2015.03.30(月)
文=山口哲一、伊藤涼