『お熱いのがお好き』が撮影された高級ホテル

ホテルの入口脇には名前の入った看板があり、記念撮影のポイントに。

 コロナドの唯一の観光スポットにして代名詞的存在は、地元の人の間で“ザ・デル”の愛称で親しまれている、ホテル・デル・コロナド。コロナドビーチに面して建つ、現存するアメリカ最大の木造建築です。

 このホテルが誕生した1880年代は、サンディエゴが開発で沸きに沸いていた頃。鉄道が敷設され、米国中から投資家が押し寄せ、これから始まるブレイクの予感に盛り上がりも最高潮。人口は2年間で7倍に膨れ上がったとか。

ホテル・デル・コロナドから眺める、夕映えに染まるコロナドビーチとロマ岬。

 ザ・デルの創設者のエリシャ・バブコックとハンプトン・ストーリーはそれまでホテルビジネスとは無縁ながらも、美しいビーチを前にして、土地を買うことを決断。後世まで語り継がれるような、素晴らしいホテルを建てることを心に誓いました。

 二人の創設者は自分たちの趣味を生かして、“フィッシング&ハンティングリゾート”としてザ・デルを売り出しました。釣りや猟に加えてゴルフやビリヤード、アーチェリーなど、その頃の娯楽を結集し、電話機やエレベーター、消防システムなど、当時のハイテクを駆使、ヨーロッパからリネンや食器を取り寄せるなど、まさに最先端を行く存在。

映画『お熱いのがお好き』撮影時、監督のビリー・ワイルダーはこの木の枝を見栄えが悪いと伐採。編集時にトラブルが続き、木が恨みを晴らしたのでは? とのウワサが……。

 ザ・デルは歴代アメリカ大統領のスピーチやリンドバーグの歴史的な飛行の祝賀パーティーなど、世間の耳目を集めるエピソードに事欠きませんでしたが、今でも語り草になっているのが、映画『お熱いのはお好き』のロケ地になったこと。トニー・カーティス、ジャック・レモン、マリリン・モンローが主演したコメディ映画です。

 大スター見たさに集まった見物人は、コロナドビーチではしゃぐマリリン・モンローに大歓声。騒ぐギャラリーをあやすように、モンローが「シーッ」と口元に指を立てると、一斉に耳をそばだて静かになったそう。この頃、情緒不安定だったとされるモンローですが、ビーチでは楽しげに過ごしたそうです。

2015.01.17(土)
文・撮影=古関千恵子