現代ものだけど、郷愁伝わる故・全日根の作品に触れる
川口美術を訪ねると、時はゆったりと流れるのだが、時間はあっという間に過ぎる。そんな楽しいこの店では、年に10回ほど、韓国骨董を探求する現代作家の個展などが開かれる。焼物あり、金工あり。ときに毛色の変わった展示も。きのうまでの展示は、イランの古い絨毯だった。通常置かれる韓国骨董も楽しいが、そんな個展にも川口さんの眼力が感じられる。
右:美しい様子の茶碗は三島茶碗といって、15~16世紀の朝鮮半島で焼かれていた茶碗を模したもの。静かなたたずまいは、眺めているだけでも素敵。
2014年11月の個展は、とくにイチオシ。3年前に亡くなった全日根(チョン・イルグン)の茶碗展だ。彼の作品への川口さんの思い入れはとりわけ強く、命日である11月19日(水)から、遺作の茶碗を集めての個展となる。
全日根は京都で生まれ、絵画から焼物の世界に入った作家。三重県に窯を開き、独特な温かみのある作品で人気を博した。残念ながら64歳で他界したが、その世界観を愛する人は多い。骨董初心者の感想で恐縮ながら、朝鮮民画に描かれるほっこりとした感じを、その作品から受ける。過去、何度か川口美術での個展も開催されたが、今回は茶碗をメインに紹介されるという。
右:左が安南茶碗でベトナムの安南焼風。中奥が粉引茶碗で、朝鮮の李朝時代に造られた、柔らかな白い肌合いが特徴の茶碗を模したもの。右が鳥の絵の筒茶碗で、ちょっと織部風にも見えるもの。
「全さんが亡くなって、窯場に茶碗がたくさん遺っていたので驚きました。茶碗は約束事がいろいろあって難しいと言っておられたので。織部風や安南風、オリジナルのものなど、たいへん愉しいものばかりです。茶碗として使って観ていただくのが良かろうと思い、個展に合わせて茶会も開いてもらうことにしました」と川口さん。
ちょうど11月は、お茶の世界では“茶の正月”。新しく炉を開き、新茶(初夏に摘み取った茶の新芽を、茶壺に入れ封をし冷暗所に置き、旨味の出る11月に封を切り、茶臼で挽いて、抹茶として使う)をいただく季節。全日根の作品を知らない人も、茶道に無縁の人も、この機会に一服頂戴してはいかがだろう。
「故 全日根 茶碗展」
会場 川口美術
会期 2014年11月19日(水)~23日(日・祝)
※会期中、19日(水)、20日(木)、21日(金)は川口美術、22日(土)は陶々舎、23日(日・祝)は岩井邸にて、全日根の作品(茶碗ほか蓋物の菓子器、水指を使用予定)の茶会が催される。時間・人数に限りがあるので、参加希望の人は、電話で予約をしよう(075-781-2255)。
川口美術
所在地 京都市左京区下鴨宮河町62-23
電話番号 075-781-3511
URL http://web.kyoto-inet.or.jp/people/kawabi/
営業時間 11:00~18:00
定休日 月・火曜日(個展会期中無休)
大沢さつき(おおさわ さつき)
大好きなホテル:LAPA PALACE@リスボン
大好きなレストラン:TORRE DEL SARACINO@ソレント
感動した旅:フィリピンのパラワン島ボートダイビング、ボツワナのサファリクルーズ、ムーティ指揮カラヤン没後10周年追悼ヴェルディ「レクイエム」@ウィーン楽友協会
今行きたい場所:マチュピチュ
Column
トラベルライターの旅のデジカメ虫干しノート
大都会から秘境まで、世界中を旅してきた女性トラベルライターたちが、デジカメのメモリーの奥に眠らせたまま未公開だった小ネタをお蔵出し。地球は驚きと笑いに満ちている!
2014.10.14(火)
文=大沢さつき
撮影=大沢さつき、居山優子