世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。
第55回は、大沢さつきさんが、美しい器とともに愉しむ秋の京都への旅を提案します。
居心地満点にして、韓国骨董の奥深さを教えてもらえる川口美術
紅葉で賑やかになる前に、久々、京都へ。
下鴨神社の境内にある糺の森は原生林で、静寂の京都を堪能できるおすすめの散策路。まずは、女性を守る河合神社にお参りする。なんでも手鏡形の絵馬に、キレイになりたいと願いをこめながら、理想の顔をメイキャップして奉納すると美人になれるそうな。ご利益のほど、いかに? と思いつつ、森の中をまっすぐとのびる表参道を南へ下る。
北側の下鴨神社にはお参りせず、鳥居を出ると、大きな邸宅が続く通りに行き当たる。この界隈は高級住宅街。京都の財界著名人が居を構える、通称“社長通り”のあるエリアだ。
そんな邸宅エリアの一角にあるのが、ここ川口美術。朝鮮家具と韓国の骨董を扱うお店だ。扉を開けると、ほのかに薫るお香と、品のいいご店主川口さんが迎えてくれる。店内には、川口さん自ら韓国で買い付けてきた古美術が並ぶ。家具あり、民画あり、焼物あり……。素人には“何?”と思う木のもの、石のものも。多種多様の古美術がずらりと、されど整然と、絶妙なバランスで展示されている。いずれの品も、どこかしら気品があって、1点1点が自立した美しさを発している。川口さんの選択眼、センスなのだろう。
右:オーナー兼ご店主の川口さん。川口さんと話していると、気ぜわしい我が身がトキホグされる感じ。各作品の説明には、深い慈しみが感じられて、ほんとうに気に入ったものだけを買い付けているであろうことが、こちらにも伝わる。
気になるもの、不思議なもの、目に留まったもの。何も分からぬままに質問をしても、ていねいに、また辛抱強く説明をしてくれるのが川口さん。この解説のおかげで、骨董ビギナーも、骨董の奥の深さや面白さを知ることができるのだ。例えば、文箱の説明。ただ年代や木の種類を教えてくれるのではなく、当時の文人がどのように使ったであろうか……、日本の美意識との違いや時代背景、古い文箱ひとつから広がる世界をひも解いてくれる。とても楽しい。
右:階段の踊り場には天井まで開けられたガラス窓があり、中庭の緑が見渡せて開放的。この明るさもまた、川口美術の心地よさの秘密?
2014.10.14(火)
文=大沢さつき
撮影=大沢さつき、居山優子