2014年6月27日から、アメリカの現代美術家、ジェフ・クーンズの大回顧展がニューヨークのホイットニー美術館で開幕している。
クーンズは低級、俗悪、キッチュと呼ばれるような美意識を露骨なまでに強調した作品で知られる。アクリルケースに収められた新品の電気掃除機、金色に塗られたマイケル・ジャクソンとペットのチンパンジーのセラミック彫刻、露店で売られているバルーン・ドッグを鏡面仕上げのステンレス鋼で再現した巨大な彫刻、ポルノ女優のチチョリーナとクーンズ自身が共演する姿をモチーフにした絵画。既製品をアート作品に流用するレディメイドや大衆文化のイメージをアートに転用するポップアートの手法は今では一般的だが、それらの可能性を徹底的に追求するところにクーンズの特色がある。
クーンズはすでに30年以上のキャリアを誇る。その作品やコンセプトはダミアン・ハーストや村上隆といった多くのアーティストに影響を与え、世界中の裕福なセレブリティが競うように彼の高価な作品を購入している。現代において最も成功したアーティストのひとりだが、これまでニューヨークの美術館で本格的な回顧展が開かれることはなかった。今回のクーンズ展に出品される作品は150点あまり。70年代後半から今日までの代表作が網羅されている。
またホイットニー美術館がほぼ全館のフロアを使って一作家の個展を開くのもこれが初めてだ。ちなみにホイットニー美術館は2015年にミートパッキング・ディストリクトの新しい建物に移転することが決まっており、アッパーイーストのマルセル・ブロイヤー設計の建物での展覧会はこれが最後となる。
2014.07.30(水)
文=鈴木布美子