憂いのある声だから歌詞を考えながら歌うと重すぎる

近田 それが、デビュー曲となる「すずめ」だったわけだ。

増田 それがもう、「これから今すぐ線路に飛び込みます」ぐらいの悲壮な雰囲気が込められた歌で、すごい迫力だったから、私、歌えるのかなぁ~って……。

近田 予想を大幅に上回るみゆき節だったわけだ(笑)。

増田 説得力がすごくって。そんな仮歌を一回聴いたら、頭の中に残っちゃうじゃない? いざレコーディングに臨むと、やっぱり、真似しちゃうんですよ。

近田 その気持ち分かるよ。実際、個性の強いシンガーソングライターからの提供曲ってさ、作り手そのまんまの歌いっぷりになっちゃうケースが多いもん。

増田 だから、ディレクターにも、「それじゃケイちゃんの歌にならないでしょ」って言われて、ずっとNGばっかりだった。歌入れには3日間を用意してたのに、OKが出ないまま、想定外の4日目に突入しちゃったんです。そしたら、しびれを切らしたディレクターが、「みゆきさんのことは忘れて、違うこと考えながら歌ってみたら?」と提案してくれて。

近田 何か別のこと考えたの?

増田 「今日は帰ったら何食べようかな」って考えることにしました。何度も繰り返し歌って、歌詞はもう完全に頭の中に入ってるから、夕飯のこと考えたとしても、口からは自然に歌が出てくるぐらいだったし。

近田 結果はどうだった?

増田 一発OKでした。ディレクター曰く「ケイちゃんの声にはすごく憂いがあるから、歌詞を考えながら歌うと、重たすぎるんだよ。聴いてる方は引いちゃう」。

近田 なるほどね。思い入れが過多だと、こっちも疲れちゃうもんね。

増田 「だから、歌詞の意味は一切考えないで歌った方がいいんだ」って。

近田 これから、「すずめ」が流れてきた時は、ケイちゃんが何を食べようと思ってるのか、想像しながら聴くことになりそうだよ(笑)。

増田 今も、ステージで「すずめ」を歌う時は、レコーディングの時の自分の気持ちが憑依したりするんですよね(笑)。

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