コロナ禍前に政府間の交渉が進展

 パンダを誘致するには政府の動きも必要だ。外務省によると、安倍晋三首相(当時)と中国の李克強首相(当時)は2018年10月26日に会談し、新たなパンダの供与に向けた環境を整えるため、政府間の覚書の交渉を進めることで意見が一致した。習近平国家主席は2020年春に国賓として来日し、安倍首相(当時)と日中首脳会談を行う予定で、その際パンダの貸与に合意する可能性があった。だがコロナ禍で習近平国家主席の来日は延期。安倍晋三氏は2022年7月8日に射殺され、李克強氏は2023年10月27日に心臓発作で急逝した。

 近年は、超党派の日中友好議員連盟の二階俊博会長(当時)が2024年8月28日、中国の王毅外相と北京で会談した。報道によると、会談に続く夕食会で、王毅外相は日本へのパンダ貸与に前向きな考えを示したとされる。同連盟の森山裕会長も2025年4月29日(火)と7月11日(金)に中国の要人と会談した際、パンダ貸与を要請した。

 対して、中国外交部(外務省)の報道官は、公式サイトによると、2025年4月29日(火)と5月26日(月)の定例記者会見で日本とパンダに関する話をした。日本に対しパンダを新規に貸与するという明確な発言はなかったものの、「日本がパンダ保護のための国際協力に引き続き関心を持ち、中国のパンダ保護活動を支援することを歓迎します」と述べていた。

パンダ不在を回避したアメリカ

 一方、アメリカは、すんでのところでパンダがゼロにならなかった。ワシントンにいた親子3頭が2023年11月8日に中国へ渡り、約半世紀ぶりにアメリカの首都からパンダが姿を消した。当時のアメリカにいたパンダはアトランタの親子4頭だけで、この4頭も翌年の中国行きが決まっていた。

 ところが2023年11月16日、中国の習近平国家主席がサンフランシスコでスピーチし、アメリカに新たなパンダを送る意向を示した。その約半年後の2024年6月27日にサンディエゴへ2頭、同年10月15日にワシントンへ2頭が到着。約1週間後の10月22日、アトランタにいた4頭が中国へ渡った。

 3年前の12月、日本には13頭(アドベンチャーワールド7頭、上野動物園5頭、神戸市立王子動物園1頭)のパンダがいて、中国国外で最多だった。国内の複数の施設にパンダがいた国は、中国を除けば日本とアメリカだけ。そんな日本のパンダがゼロになろうとしている。

 パンダの貸借には、日中関係に限らず、国家間の関係が影響する。現在、政治面での日中対立によって、批判の矛先をパンダとパンダを好きな人に向ける内容がウェブ上を中心に散見される。ただ、パンダを好きな人の多くは、政治的な思想に関係なくパンダが好きで、パンダの幸せを願っているのではないだろうか。シャオシャオとレイレイは、生まれ育った日本での残りの日々を健やかに過ごしてほしい。

中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo

パンダワールド We love PANDA

定価 1,650円(税込)
大和書房
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)