芯は強いがふだん他人を気遣ってばかりの桃生(ものう)(すい)(32歳)は、7年交際していた会社の同僚と結婚間際だったものの、ブライダルチェックで不妊症が発覚し、破談となる。そのまま会社も退職してしまった翠の人生は、年下イケメンの建築士・月留真央と出会うことで、再び動き出す……。

 電子書籍サイト「コミックシーモア」のオリジナル作品『できても、できなくても』のあらましだ。恋愛ストーリーにのせて不妊というテーマを真正面から取り上げる異色作は人気を呼び、このたび宇垣美里や山中柔太朗(M!LK)出演でTVドラマ化と相なった(10月9日より、テレビ東京ほか)。

 作者の朝日奈ミカ氏に、創作の経緯からドラマキャストへの思いまでを聞いた。(全3回の1回目/マンガを読む

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治療を乗り越えた末の“激しい悔しさ”

 大人のラブストーリーとして「ドキドキ」と「ハラハラ」を存分に楽しめる同作だが、そこに不妊というテーマが絡むことで、作品に重みと読みごたえが与えられている。

 不妊を取り上げたきっかけを朝日奈氏に問うと、

「もともとは、産後に壊れた自分の心を立て直すために、描き始めたものでした」

 と述懐してくれた。

「私はつらい不妊治療を経て念願の妊娠・出産をしましたが、その後、心身ともに苦しい時期がありました。脱水症状と寝不足でボロボロになりながら、夜中に『ああ私もう死ぬかもしれない……』と子供の寝顔を見ながら思ったとき、無性に激しい悔しさが湧き上がってきたんです。

 あんなに苦しかった治療に耐えて、やっと夢が叶って赤ちゃんとの生活が始まったのに、全然幸せじゃない。それが悔しくてたまらなくて。なんとか本来の自分を取り戻したい、と強く思いました」

 自分の思いや体験を漫画に落とし込む――その模索を続けるうちに、多くのことに気づいたという。

「不妊治療中のことは、正直思い出したくないことも多いのですが、あのころがいちばん真剣に、自分にとって何が幸せかを考えていたように思います。当時のことを頭のなかに蘇らせようとしていると、苦しかったときにもたくさんの感謝がちゃんとあったと気づきました。

 バラバラになった心を組み立て直そう、自分が幸せになるためにもう一度ちゃんと考えようとして、生まれてきたのがこの作品でした」

 不妊というデリケートなことがらを、エンターテイメント性の高い漫画というかたちで伝えるのは、かなりの難題だったのではないか。

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