京都という土地の磁場を書く

一穂: またここで描かれている、京都の少し嫌な部分がシビアで圧倒されました。「生まれが悪い子」という言葉は初めて聞いたのですが、「育ちが悪い」とはニュアンスがだいぶ違いますよね。

綿矢: 小説では書きましたが、実際に「生まれが悪い」という言葉が京都にあるのかはわからないです。仰るとおり、「育ちが悪い」はまだ救いがあるけど、「生まれが悪い」と言われるともうどうしようもない。いまはどうかわからないですけど、私が子供の頃の京都には、まだ“生まれ”が価値を持つという文化がありました。伝統や歴史を守る生き方が染み付いているからかもしれません。京都を批判したいわけではなく、ただ、特有の雰囲気はあったなと思い出しながら書いた部分です。

一穂: 京都出身の作家さんが書くのは勇気がいりますよね。

綿矢: すごく悩みました。なので「文學界」で連載していたときは、かなりぼかして書いていたんです。でも単行本にする際に読み返してみたら、ぜんぜん意味がわからなくて。隠して伝わる小説ではない、と気づいてからは腹を括りました。

一穂: 京都はそういう意味で難しい土地ですよね。大阪人は率先して自分たちをネタにしますが、京都には、何か言ってはいけないような雰囲気も感じてしまって……。第二部に入って東京で暮らす久乃が、綸も東京へ来ているとインスタで知ったことで、初めて彼女に会うために動き出すという展開は象徴的ですよね。京都の磁場から抜け出したというか、それまでも会いに行こうと思えば行けたはずなのに勇気が出なかったんだなって。

綿矢: そうですね。ふたりが京都という基盤の上にいる間は、近くにいたのに再会できなかった。そこから出たことで、ようやく会える雰囲気が整ったんだと思います。

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