『激しく煌めく短い命』あらすじ
 京都に暮らす久乃(ひさの)は、中学校の入学式で出会った同級生の綸(りん)にひと目で惹かれ、ふたりは周囲の偏見にも負けず、手さぐりで愛をはぐくんでいく。
「名前なんか、どうでもいーやん。私は久乃が好き。久乃は私が好き。それで十分やろ」
 しかしあることがきっかけでふたりは決定的に引き裂かれる。そして十数年後、東京の会社に勤める久乃は思いがけない形で綸に再会するのだった——。

不器用なふたりを書きたかった

一穂: 『激しく煌めく短い命』、めちゃくちゃ面白くて、特に第二部からは一気読みでした。私が綿矢さんの小説で好きな主人公のユーモアも健在で、久乃がいきなりギャルになった同級生に「どうした?」って心の中でツッコミを入れるところとか、秀逸ですよね。それと同時に燃え上がるような恋の描写! 綿矢さんの作品の中でも男女の恋愛を書いたものはあまり情熱的といったイメージがなかったので、『生のみ生のままで』を読んだときも驚いたのですが、そうした方向性の違いは意識されていますか?

綿矢: 私が男女の恋愛を書く場合、女性が男性に片思いをしているけどなかなか距離が縮まらず、そのまま勝手に失恋したりするシチュエーションが多いんです。でも女の子同士だと、友達から始まるので最初から距離が近い。相手を特別な存在として敬いすぎていなくて、お互いの気持ちを確かめ合いながら物語を進められるから恋愛に発展しやすいのかもしれませんね。『生のみ生のままで』を書いたときに、「私は女性同士の恋愛だと、こんな風に書くんだ」と初めて実感しました。

一穂: 『生のみ生のままで』が一大ロマンスだったので、また女性同士の恋愛を題材に読み応えのある長編を書いていただけるとは思ってもみませんでした。何か、書き切れなかったことがあったのでしょうか?

綿矢: 『生のみ生のままで』では、良い方向に努力し、目標に向かってまっすぐ進むふたりを書きました。それとは逆に、うまく努力できなくて不器用で、お互いの気持ちもよく分かっていないようなカップルだったらどうなるだろう、と思って書いたのが『激しく煌めく短い命』です。『生のみ生のままで』が「陽」なら、こちらは「陰」と言えるかもしれません。

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