プラネタリウムとのコラボレーションが実現
――今回、最果タヒの『詩のプラネタリウム』というユニークな上映企画が実現することになった経緯を教えてもらえますか。
最果 私が星好きなことを知っていたテレビマンユニオンの中川さんが、私と詩のプラネタリウムを作りたいってツイートしていたのを私が見つけて、「ぜひ」って声をかけたんです。その後、みなさんがものすごく頑張って動いてくださって、私の詩とプラネタリウムのコラボレーションが実現することになりました。

もともと私はプラネタリウム好きで、美術館に行くように日常的に訪れています。プラネタリウムで、真っ暗な空間から一気に星が瞬いて、その光を浴びることがとても好きなんです。旅行先などで、夜が本当に真っ暗な地域に行って見上げた時の星空は、びっくりするような美しさのものですが、あの記憶って写真でも映像でもなかなかリアルには思い出せなくて。それは、星空に包まれている感覚が、それでは蘇らないからなのかなって思います。プラネタリウムは、一番、星空に包まれる感覚を思い出せるから、私にとってとても大好きな場所です。
「互いが違うこと」をそっと包むような星の光が好きです
――本書の詩では、そんな星々の光に誘い出されるように、さまざまな他者への感情が描かれていますね。
最果 星ってとても遠くにあるから、見上げていると、ふと遠くの誰かも今同じ星を見ているのかな、って想像することがあります。
人は、近いものを一緒に見るとき、案外、違うものを見ていたりします。たとえば「この花綺麗だね」って眼の前の花を見ても、花びらを見ている人もいれば葉っぱを見ている人もいる。でも、星というすごく遠くにあるものなら、一点の光だから、なんだか、同じものを見てるって信じられる感じがします。
人はそれぞれ違うことを考えて、違う生き方をしていて、だからわかりあうことは難しいけれど、一つのものを見つめている時間がある時、同じ世界に生きているんだという実感が、そっと胸に灯って、それが相手を思うことの優しさや相手が思いやってくれることを信じる勇気をくれるのかもしれないです。
そんな「互いが違うこと」をそっと包むような星の光が好きで、そんな星の光のような本が作れたらいいなと思ってこの本を作りました。

――他者をめぐる最果さんの詩には、強い言葉の力がありますね。
最果 私は、詩の言葉で、何か具体的なものを捉えようと思ってはいないのですが、ただ何か一つを信じようとする人の、瞳の光のようなものが詩に宿らせられたらいいなとよく考えています。
「うまく説明できないけれど、でもこの感情を手放せない」と人が強く思うとき。それは愛だとか孤独だとかさみしさだとか、いろいろあると思うのですが、そのときの、その人にしか見えない星を見据えているかのような瞳の光が、詩になればいいなと考えています。理屈ではない強い光を、言葉にできたら、それはきっと詩になるはずだって。
星をめぐるギリシャ神話の世界
――本書では、星をめぐるギリシャ神話の世界にもいろいろ触れていますね。
最果 星座にまつわる様々な神話って、現代に置き換えたら結構ひどい話が多いなぁって思っていて……。なんでこんなことを強要するの? と思うような、誰かが踏みにじられている話が私は苦手でした。
そんな中で、白鳥座のお話はとても好きです。何種類か神話はあるんですが、その中のキュクノスの神話が好きなんです。
2025.10.17(金)
文=最果タヒ