古都・鎌倉に息づく美意識を映し出す御成町。カフェや雑貨店が軒を連ね、地元の人々と観光客が行き交う駅近のエリアに、新たなコミュニティスポット「御成桑拿(おなりさうな)」が誕生します。目指すのは、単なる発汗の場ではなく、街と人とをつなぎ、ととのえるための拠点。銭湯文化の記憶を継承しながら、現代的なデザインと革新的なサウナ体験を融合させた空間です。鎌倉散策の締めくくりに、思わず立ち寄りたくなる新しい拠点が生まれました。


街と人を結ぶ、新しい「ととのい」の拠点

 建築を手がけたのは、谷尻誠さんと吉田愛さんが率いるSUPPOSE DESIGN OFFICE。国内外で商業施設から住宅まで多岐にわたる実績を持ち、またサウナ愛好家でもある彼らが、鎌倉という地に根差した現代的なサウナ空間を作り上げました。シンプルかつモダンな外観はまるでギャラリーのような雰囲気ですが、一歩足を踏み入れると目に飛び込んでくるのは、昭和の銭湯文化を想起させる番台風カウンター。新しさと懐かしさを見事に共存させています。

 SUPPOSEが重視したのは「建築と蒸気のデザインが響き合うこと」。サウナ室の給排気の流れに合わせて壁面を設計し、天井の高さや角度も調整しています。

madsaunist監修のサウナで至高の体験を

 御成桑拿の真髄は、ここでしか味わえない「蒸気のデザイン」。導入したのは、日本では初となる最新式スチームシステム「MAD ENGINE」。一般的なサウナの蒸気が重く感じられるのに対し、この仕組みでは100℃の飽和水蒸気と、それを超える温度の過熱水蒸気を緻密に組み合わせ、軽やかで呼吸しやすい蒸気環境をつくり出します。熱気に包まれながらも息苦しさがなく、身体の芯にじんわりと熱が届いていく感覚は、従来のサウナ観を塗り替えるものです。他とは異なる、呼吸のしやすさに驚くことでしょう。

 さらに、madsaunistが独自に考案した独自の入浴法「ヒューマンロウリュ」も見逃せません。サウナ室の中で、タイミングを見計らって全身に水を浴び、一時的に体表温度を下げる――その瞬間、緊張していた身体が解放され、再び蒸気に包まれることで、より深く内側から温められていきます。熱と冷たさを往復するこのリズムは、ただの温冷交代浴ではなく、心拍や呼吸を整え、瞑想的な体験をもたらします。

2025.10.11(土)
文=高田真莉絵
撮影=佐藤 亘