この記事の連載
マウンテンゴリラに会いに行く #1
マウンテンゴリラに会いに行く #2
マウンテンゴリラに会いに行く #3
マウンテンゴリラに会いに行く #4
CREA Traveller 2025 秋号の特集は、「HOTEL 地球の美しいものを見に行く」。
地球という“奇跡の棲家”にはまだ見ぬ、心揺さぶる風景がいくつもある。野生動物の息使い、神秘の森の営みといった生き物の息吹を感じる世界有数のネイチャーリゾートの旅へと出かけよう。
自らの足で歩くトレッキングでしか会いにいけない、絶滅危惧種の希少なマウンテンゴリラ。だからこそ一生に一度の、人生観を変える旅になる。ルワンダ、ヴォルカノ(火山)国立公園の森深く、彼らに遭遇する唯一無二の心震える体験を。
長年の調査研究の成果で実現したゴリラツアー

サファリトラベルで今最も注目されているのがゴリラトレッキングだ。
ゴリラはニシゴリラとヒガシゴリラに大別されるが、目的とするのはヒガシゴリラの亜種である、絶滅危惧種のマウンテンゴリラ。世界でルワンダ、ウガンダ、コンゴ民主共和国の3ヶ国にしか生息しない。いずれの国でもゴリラトレッキングを実施しているが、コンゴ民主共和国は治安面の不安があり、人気が高いのはルワンダとウガンダ。いずれもゴリラトレッキングは国の組織が管理運営している。
車でアプローチするゲームドライブと違い、ゴリラはトレッキングでしか会うことができない。近年、数が増えてはいるが、地球上に約1000頭しか生息していない。そうしたハードルの高さが人気の背景にある。サファリを何度も経験したラグジュアリートラベラーや一生に一度の体験を求めるハネムーナーの冒険心を駆り立てるのだ。

人間に最も近い遺伝子を持つ霊長類のひとつであるゴリラは、時に人間のように思慮深そうな表情を見せる。カメラのファインダー越しに目があってドキッとしたこともある。それもまた、ゴリラトレッキングを一度体験すると虜になってしまう理由だ。
成熟したオスのマウンテンゴリラは体重200キログラムになることも。徒歩で安全に対面できるのは長年の調査研究があってこそだ。
ヨーロッパ人がマウンテンゴリラを発見したのは1902年。本格的な研究が始まったのは1950年代からで、知能が高く温厚な動物であることが知られるようになった。

著名な研究者として、ダイアン・フォッシーがあげられる。1988年の映画『愛は霧のかなたに』のモデルだ。彼女の最大の功績は、ゴリラと信頼関係を築き、人に馴れる道筋をつけたことにある。マウンテンゴリラは家族単位で行動するが、ゴリラトレッキングは人に馴れた関係性が前提になる。

1985年12月27日、ダイアンは何者かに襲われて謎の死を遂げる。マウンテンゴリラをこよなく愛した彼女は密猟者と厳しく対峙した。その死は密猟者の仕業だったのか、真相は今もわからないままだ。
2025.09.22(月)
文=山口由美
CREA Traveller 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。