駿河台下から神保町のすずらん通りへ

 御茶ノ水通りを下っていくと駿河台下の交差点がみえてくる。明治大学も立派になっていた。

 楽器屋がならぶ駿河台下に向かう坂道には「みつもり」という立ち食いそば屋があった。今回の1979(昭和54)年の地図で確かにその記載を確認できたのは大変よかった。

「みつもり」に私が初めて行ったのはちょうどその頃である。通りに面したところに大きな寸胴が置いてあり、そこからつゆの香りが歩道中に漂ってくる。あまりにいい香りだったので入店した。食べたのは「たぬきそば」。つゆはしょっぱすぎることはなく、程よい塩味で出汁が香っていた。麺は茹で麺だったがコシがあった。

 今思えば興和物産のそばだったかもしれない。なみなみとそそがれたつゆに泳ぐたぬきもうまくて、2杯目のお代わりをした記憶がある。その後2回行って、3回目行ったら跡形もなくなっていた。1980(昭和55)年頃には閉店していたようだ。残念ながら写真はない。現在は駐車場になっていた。

 確かここだ。本当にうまかった。「みつもり」は個人的には仙台にある人気チェーン「そばの神田」と味が近く、関連があるのではと考え、調査中だ。

 すずらん通りに入ると、1979(昭和54)年の地図には「立食いそば」の記載がある。この店が評論家エッセイストの坪内祐三[2020(令和2)年3月没]が足繁く通っていた店「おばこ(通称スタンドそば)」である。

 1993(平成5)年頃、突然立ち退きで閉店しその行方が分からず、坪内さんは途方に暮れていたという。

 その後、「おばこ」は、虎ノ門で「峠そば」として再スタートしていた。現在は茅場町で営業している。スタンドそばと呼ばれていたが、当時虎ノ門や日本橋にあった「スタンドそば」とは全く別の経営である。

 さて、神保町の「おばこ」の現在地がどうなっているのかみにいってみると、ビルが建っており、すぐそばで小諸そばが営業していた。

「小諸そば」の左側には「キッチン南海」があったが、いまは近くに移転して「神保町よしもと漫才劇場」の先で営業している。また、靖国通りの反対側の交差点近くには「利根そば」[2012(平成24)年10月閉店]があった。

「利根そば」の場所はその後「むぎなわ」、「いわもとQ」[2023(令和5)年10月閉店]が店を開き、現在は「新橋ニューともちんラーメン神保町店」が営業している。このエリアで現在ある立ち食い(大衆)そば屋は「小諸そば神保町店」、「嵯峨谷神保町店」、今年4月にオープンした「梅市」である。

 なお、「さぼうる」は相変わらず大人気だった。

2025.08.30(土)
文=坂崎仁紀