
来場者が1,000万人を超え、ますます盛り上がりを見せる「2025大阪・関西万博」。会場内ではパビリオンでの常設展のほかに期間限定のイベントも数多く行われています。5月にフランス館内で開催されたのが、フランス本土最北端に位置する都市、ダンケルクを紹介する展示です。
ダンケルクと聞くと、クリストファー・ノーラン監督が第二次世界大戦中の史上最大の救出作戦を描いた映画「ダンケルク」を思い浮かべる人が多いかもしれません。実際、ダンケルクとはどんな都市なのでしょうか?
ダンケルクが多角的にわかる会場デザイン

会場ではパネルや展示物、カンファレンスなどを通して、ダンケルクの歴史やサステナブルへの取り組み、イノベーション、経済・財務指標、観光などさまざまな側面からこの街の魅力をプレゼンテーション。フランス第三の港湾都市であるダンケルクについて理解が深まる絶好の機会となりました。そこで紹介されたのは、さまざまな困難にも屈することなく、時代の変化に対応しながら何度でも立ち上がる、希望に満ちた都市の物語です。

ダンケルクは正式にはダンケルク都市共同体(CUD)であり、地方自治体共同体組織です。現在は17のコミューンから構成され、住民は20万人ほど。
実はフランスの地方自治体の中でコミューンと呼ばれる基礎自治体はおよそ37,000もあります。その約9割が2,000人未満、約6割が500人未満で、単独では行財政基盤が弱いため、コミューン間の広域行政組織が発達。15以上ある都市共同体のひとつがダンケルク都市共同体になります。
ダンケルク港を象徴するコンテナ船の模型展示

第二次世界大戦によって完全に破壊されたダンケルクは、1945年から復興が始まり、自動車産業を中心に、鉄鋼、食品加工、製油、造船、化学工業などが盛んな工業都市として発展してきました。
臨海部には、輸入鉄鉱石を利用した大規模な製鉄地帯が発達し、鉄鋼や重化学工業においてはフランスの中でも主要な都市のひとつとして知られています。

しかし、石油を安価で手に入れて発展するこのモデルは、1990年代から危機的状況にあり、2008年のリーマンショックでは何万もの雇用を失う事態に。それに伴い、人口も減少。2013年にはフランスで最も人口減少が著しい都市となり、失業率もフランスの平均よりも高いレベルにまで上昇したのです。
この苦境がダンケルクをひとつにしました。2014年に商工会議所や経済団体、産業界、すべてのコミューンの代表などが集まり、何かをしなければならない、行動を起こさなければならないと考え、経済発展や都市開発のモデルを変えようと決めたのです。20世紀後半型のモデルではなく、21世紀型の産業モデルを作り上げよう、未来のダンケルクを作ろうと。
2025.08.07(木)
取材・文=石川博也