父は“見守り隊”? 赤ちゃんとの距離感

群れで子育てをするフランソワルトンですが、父親はその中でどんな役割を担うのでしょうか。
「フランソワルトンのオスは子育てにほとんど参加しないので、2頭とも以前と変わらず生活しています。トントンは元々いた群れで妹のモカの誕生を見ていますし、タンタンも以前の群れで出産を見ていたので問題ないと思っていましたが、赤ちゃんのことを『何か動いてるなぁ』という感じで見ながらも、自分から触りにいくことはほとんどありません。ある程度、子どもが動けるようになって父親の手や尻尾を掴んだりした時は、父親は拒否せず、されるがままです。
子どもがオスの場合、少し成長するとじゃれあいのような組合をしたり、甘噛みしたりして、お父さんとやんちゃに遊び始めるんです。そうすることで、子どもは力の加減を覚えていくんでしょうね。メスの子どもの成長を見るのは私にとってミントが初めてとなるので、どんなふうに育っていくのか、お父さんとはどんなふうに接していくのか、これからが楽しみです」

「トントンはすごく穏やかな性格で、人に対して怒っているところはあまり見たことがありません。普段、お世話をしている私たちにも以前と変わらず接していますが、この前、飼育体験でお客様がバックヤードに入った時、遠くから赤ちゃんを見てもらったんです。すると、トントンが最前線に出てきて怒っていたので、群れのまとめ役として守らなきゃいけないという意識が芽生えてきているのかなと感じました」
生後約3ヵ月となる2頭は成長の中で、食べるものも常に変化しています。

「生まれたばかりは完全母乳ですが、生後1ヵ月くらいで歯がしっかりと生え揃います。そのあたりからお母さんが食べているものをくわえてみたり、口に入れたりするようになります。
例えば、根菜や葉っぱを口に入れてもぐもぐしても、最初は口から出てきてしまいますが、しばらくすれば、ごっくんと飲み込めるようになるんです。今は母乳も飲みつつ、少量ですが、お母さんと一緒のものを食べています。
フランソワルトンはリーフイーターという葉っぱを食べるサルなので、葉っぱを食べられるような腸内環境になっていかないといけないんです。過去の記録から人工哺育になった場合、その変化をうまくうながすのが難しいことがわかっているので、お母さんに育ててもらえる環境が一番というのもあるんですよね」

まだまだ、あまり知られていないフランソワルトン。ズーラシアでは毎日「飼育員のとっておきタイム」と題して、動物たちを観察しながら、飼育担当者の解説を聞くことができます。
8月31日までは11時45分(土日祝は16時)から展示場前で、フランソワルトンとアカアシドゥクラングールの「とっておきタイム」が行われており、取材の日も桒原さんが一番大きな群れの前で、それぞれのパワーバランスなどを解説。近くには、静かにじっくりと聞きながら動物を観察する来園者の姿がありました。
2025.08.09(土)
文=高本亜紀
写真=松本輝一