ベテランのチョコと新米アマナツ、2頭の子育てスタイル

ミントの母チョコに出産経験のある一方、ダイダイの母アマナツは初産。それぞれ子育てに違いはあるのでしょうか。
「やっぱりチョコのほうが抱っこの仕方が上手ですね。力の抜き具合もわかっているのか、最初から落ち着いていて、赤ちゃんが寝ている間にパクパクと餌を食べながら、赤ちゃんがもぞもぞし始めたら背中をポンポンと叩いてあげたりと、すごく上手に子育てをしています。

一方、アマナツは子育てが初めてなので、産まれた頃はダイダイを誰にも渡さず大事に大事に抱っこしていましたが、しばらくすると同居しているメスのモカに託すようになりました。お腹が空いた赤ちゃんが泣くと抱っこしに行くのですが、抱っこしながら激しく動いてしまったりと、不慣れさを感じるところもあります」
霊長類では初産の場合、母親が育児放棄することも多いと聞きます。そうならないための対策も、事前に考えて繁殖に取り組んでいるそうです。

「初産の場合、母親が(胎内から)子どもが出てきたことに驚くと落としてしまったり、抱けなかったりすることが多いんです。
アマナツは元々、先ほどお話しした一番大きな群れで生まれ育った子で、ユズという自分の母親からきょうだいが生まれる瞬間を見ていましたし、赤ちゃんを抱っこしたくてしょうがない子で、触らせてほしそうにずっと母親の近くにいたり、抱っこしてしっかりと面倒を見ていたりしていました。自分の子どもが生まれたとしても驚かずに抱っこすることができるのではないかというところから、群れを移動させて繁殖に挑戦しました」
“お世話係”モカの未来にも繋がる、群れでの育児のリレー

「子育ての経験はその後に活かされていくでしょうし、私たち飼育員としても子を抱っこしたり、面倒を見たりする経験をさせてから、繁殖につなげていきたいという思いもあります。
今、アマナツと同居しているモカは、ミントの母親であるチョコの子どもなのですが、自分より下の子がいなかったこともあって出産を見たことがなかったんです。いずれ赤ちゃんを産んで面倒を見てもらえたらいいなという思いから、アマナツと同居させたのですが、今ダイダイのお世話をよくしてくれているので、この経験が今後、モカの出産につながったらうれしいなと思っています」

もちろん、出産に向けた準備には余念がありません。
「食べ物の面ではどうしても栄養が赤ちゃんに取られてしまうので、母親は太らせすぎず、十分に栄養がある状態を保つようにしていましたし、いつも通り展示場に出していて運動させていました」

「また、フランソワルトンは高い木の上で終日過ごすため、止まり木の上や(設置している)箱の上で出産する可能性がとても高いんです。そうなると、赤ちゃんが地面に落ちてしまう可能性もなくはないですし、落ちた時にコンクリートで頭を打つと致命傷になってしまうので、出産が近づいた時期には多少クッションになるように、地面に餌でもある枝を広めに置くようにしていました」
2025.08.09(土)
文=高本亜紀
写真=松本輝一