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そして、後日……

バックミラー越しに手を振る親族を眺めつつ、勢いよく鳴らした車のエンジン。それにも関わらず、Gさん曰く“その場には心を引き裂くような静けさが漂っていた”そうです。
田舎道を走っている時、ふとGさんの脳裏に彼女が自分の部屋に来た時に話してくれた会話がよぎりました。
その時はお酒も入って2人とも上機嫌で、なによりこの後一夜を共にすることへの期待でろくに聞いていませんでしたが、今は違います。まるで、首筋を金属のような手がツーっと這うような冷たさで、Gさんの心に染み込んで来ていました。
『わたしたちの家族ってさぁ~。みんな寝る時に●●さんって人が枕元に来るんだぁ~。超怖いでしょ~? 危害は加えないんだけど。東京来ればさぁ~、ついて来ないと思ったんだけどなぁ~』
◆◆◆
それから数日後、スマホに留守電がありました。
仕事関連かと思って聞くと、相手はあの番頭さんでした。
「Gさんですか? その節はどうも。お電話でこんなことを言うのは本当に辛いのですが、お嬢様とのご縁はこれきりでお願いいたします。あの家は、もうその、ダメですので。ただ、まだ●●●●月の前ですので、Gさんはなんとかなるかと思います。では、これで失礼いたします」
電話口からは、動物が壁を引っ掻くようなガリガリガリガリガリという音が、終始聞こえていたそうです。
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禍話
2025.08.15(金)
文=むくろ幽介