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 城下町ならではの昔ながらの街並みと、新たにオープンした心地よいカフェやレストラン、雑貨店などが見事に融合。ここ数年、にわかに注目を集めている街が長野県小諸市です。

 転機は2016年。現在三期目となる小泉俊博氏が市長に就任し、改革が始まりました。

 じつは小諸市は、1997年に長野新幹線(現・北陸新幹線)の駅が隣接市に設置され、特急が小諸駅に停まらなくなったことをきっかけに、2000年前後から経済的に低迷し、人口も減少。一時は“新幹線が通らなくなり衰退した街”のモデルケースとして、全国から行政や議会関係者が視察に訪れるほどの苦境に立たされていました。


観光にも便利なコンパクトシティ

 小泉市長はこの状況を変えるため、さまざまな政策を実施するとともに職員の意識改革にも着手。それらが功を奏し、具体的な成果として現れているのが、いまの小諸市になります。

 例えば、さまざまな機能を市の中心部に集約するネットワーク型コンパクトシティづくりへの取り組み。国交省が推進する「地方都市リノベーション事業」の第1号認定を受け、地方再生コンパクトシティのモデル都市とされています。

ここ6年で変貌を遂げた商店街

 小諸市が推し進めるのは、古くて新しいまちづくりです。実際に2019年以降、歴史的建造物を活用した19店舗を含め、70店舗以上が新規出店を果たしました。郊外にも今年6月にオープンした「song」をはじめとする個性的な新規出店や企業進出が続き、1つだったワイナリーが5つに増えたり、キャンプ場を含めた8軒の宿泊施設が開業したりするなど、人口4万人規模の街としては異例ともいえる勢いを見せています。

 移住者の7割が39歳以下であることも特徴で、全国の市区を安心度、利便度、快適度、富裕度で評価する東洋経済新報社の「住みよさランキング」では、2016年に全国812市区中374位だった順位が、2024年には26位までランクアップ。およそ8年でざっと350市区をごぼう抜きする躍進を遂げました。

「ノベルズ」が街の思い出を継承

 そんな新生・小諸市を象徴する店が、小諸駅から徒歩3分の場所にある「ノベルズ」です。

 「ノベルズ」は書店でありながら、昼はカフェ、夜はバー、さらにホステルでもある複合宿泊施設。かつてこの場所にあり、地域の人たちから愛されていた竹澤書店の思い出を引き継ぎ、次の世代にその想いを伝える場でもあります。

 移住者によって運営されている点でも、地元の人たちと移住者、旅行者が集い、交流する場所という点でも、小諸カルチャーの中核をなす店のひとつと言っていいでしょう。

 一方で新幹線の駅が隣接市に設置され、線路が小諸市を回避するかのように敷設。大規模な開発が行われなかったことにより、昔ながらのノスタルジックな街並みが残っているところもこの街の魅力です。老舗の店や施設が、移住者が営む新しい店や施設とのコントラストによって、より輝きを放つ街でもあります。

2025.09.11(木)
文・写真=石川博也