ヴァン クリーフ&アーペルのダイヤモンドと寄り添う人生が輝かしいのは、それが並々ならぬ生命力を携えているから。
では、その石はどんな風に地球に生まれ、育ち、歴史に刻まれてきたのだろう。究極のダイヤモンドの軌跡を辿る。
ダイヤモンドの輝きの魅力を知り尽くしたハイジュエラー

ダイヤモンドが宝石の女王と呼ばれ、人々を強く惹きつける理由。それは、まばゆいばかりの輝きの美しさに他ならない。光をとらえて反射するダイヤモンドの性質は、宝石の中でも抜群に優れている。だから身につけたとき、かすかな光をもはじき返して鮮烈な存在感を放つのだ。
ヴァン クリーフ&アーペルは、そんなダイヤモンドの輝きの魅力を知り尽くしたハイジュエラー。メゾンが紡ぎ出す長い長い物語は、1895年、アルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの幸福な結婚から始まっている。
23歳のアルフレッドはダイヤモンドの研磨を専門とする職人の息子。18歳でジューンブライドとなったエステルは宝石商の娘。やがて1906年、アルフレッドがエステルの兄、シャルル・アーペルとともに創業したハイジュエリーメゾンが、現在のヴァン クリーフ&アーペルにつながっている。

ふたつのファミリーが厳選した宝石は、当時の王侯貴族や大富豪たちの心を動かし、メゾンはたちまち国際的な舞台に躍り出た。彼らは歴史的な宝石を何度も扱ったが、1923年には60.25カラットのダイヤモンドで華麗なペンダントを仕立て、上流社会にセンセーションを巻き起こしている。その大粒のダイヤモンドは「プリンス エドワード オブ ヨーク」という名をもっていた。
並外れて稀少性の高いダイヤモンドには、時にこうした固有の名前がつけられる。ジャック・アーペル(エステルの甥)が手に入れた34.64カラットのダイヤモンドもそうだった。インドの由緒あるゴルコンダ鉱山で採れた、甘いバラ色に輝くファンシーインテンス・ピンクダイヤモンド。
1960年、これをオークションで獲得したのを祝い、メゾンの顧客だったバローダのマハラジャ妃を招いてレセプションを開催。妃の王子にちなんで、ダイヤモンドは「プリンシー」と名づけられた。

優れた宝石の鑑識眼をもつジャックは、その後も世界各地をはるばるめぐっては世にも珍しい宝石を買い付けたという。かつてインドは世界で唯一のダイヤモンド産出国だったため、古い鉱山から産出した良質なダイヤモンドを求めてジャックはたびたびインドを訪問。誰からも好かれる社交性でマハラジャたちと交流し「ボンベイのダイヤモンド王」とも呼ばれて親しまれたという。
さらにメゾンは1971年、オペラ歌手ガンナ・ワルスカの持ち物だった95カラットものファンシービビッド・イエローダイヤモンド「ワルスカ ブリオレット」を入手。一方で100カラットを超えるイエローダイヤモンド「ディープディン」は、購入したもののすぐに返品した。
石の色を濃くする人工的な処理が施されていることを見抜いたからだ。天然ダイヤモンドの稀少性、ありのままの美しさに重きを置くメゾンは、こうした人工的な品質の改変を決して許さなかった。

宝石ひとつひとつには生きた魂が宿っている──ジャックの兄、クロード・アーペルはよくこんなことを言っていたという。そうした“魂の炎を秘めた”宝石たちを、ヴァン クリーフ&アーペルはいつも、どんな時代も、探し求めてきた。
そして行き着いたひとつの到達点が、2022年の「レジェンド オブ ダイヤモンド」。910カラットもの巨大なダイヤモンド原石「レソト レジェンド」の購入から始まったハイジュエリーコレクションだ。
アフリカ南部にあるレソト王国から産出したこの原石は、目を見張るほどの大きさだっただけでなく、カットの腕前次第で最高級のダイヤモンドが磨き上がる可能性を秘めていた。
調査と研究に数年を費やして慎重にカットされたのは、最大で80カラット近いものを含め、67個。どれもDカラー(無色)、フローレス(最高の透明度)というトップクオリティで、しかも世界の天然ダイヤモンド全産出量のうちわずか2%ほどしかないとされる、タイプⅡaと呼ばれる稀少極まりないダイヤモンドだった。
心を揺さぶり、特別な感情を呼び起こす力を秘めた石を、メゾンは“ピエール ド カラクテール(個性を宿す石)”と呼ぶ。67個の石は、まさにそれだった。

だがヴァン クリーフ&アーペルの優越性は、宝石のクオリティだけに終わらない。洗練されたデザインと高度な職人技とで、ダイヤモンドの魅力を最大限に引き出せるのがメゾンの強み。ひとつひとつに魂を宿したダイヤモンドを、アトリエの職人たちはそれぞれに最もふさわしいセッティングで仕立て、輝かせる。それはサヴォワールフェール(芸術的な職人の手仕事)と呼ばれる。
宝石を留めた台座の裏側に、ハニカム状の小さな開口部を丹念にあしらうのも職人のこだわりのひとつだ。ミザジュールというこの技は、宝石に少しでも多くの光を取り入れて輝かせるために行われる。
また、プレシャスメタルを鏡のように磨き上げるミラーポリッシュの技も特徴的で、宝石を留める爪の内側まで徹底して磨き上げて光沢を出すため、ダイヤモンドの輝きが複雑に反射して一段と華やかさが増して見える。
クオリティ、デザイン、サヴォワールフェール。そのすべてが複雑に絡み合って、壮麗な光のシンフォニーを奏でるハイジュエリー。ヴァン クリーフ家とアーペル家が手を取り合った約120年前から、目指す高みは変わっていない。ただ、美しいものを世に送り出したいだけ。ただひたすら美しいもので、心の奥に眠る感情を呼び覚ましたいだけ。
ピエール ド カラクテール
「ピエール ド カラクテール」はメゾンの卓越性を象徴するコレクション。世界にたったひとつの個性(カラクテール)があり、その類い希な美しさで胸を熱くさせるような宝石を選び抜き、エレガントにデザインしている。眩しい輝きを引き出すため、手間を惜しまず時間をかけて仕立てられるハイジュエリーは、サヴォワールフェールの極地ともいえるもの。
ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
フリーダイヤル 0120-10-1906
https://www.vancleefarpels.com/

Column
CREA Traveller
文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。
2025.07.01(火)
Edit, Styling & Text=Mami Sekiya
Photo=Kaz Arahama
Illustration=Kanako Sasaki
CREA Traveller 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。