ジュエリーの聖地といわれる、パリのヴァンドーム広場22番地に愛し合うふたりが「ヴァン クリーフ&アーペル」を創立したのは1906年のこと。以来、サヴォアフェールが生み出す作品たちは愛と詩情あふれる物語を紡ぎ、私たちに感動を与え続けている。


【第一幕】運命のふたり、物語の幕開け

 宝石への愛を分かつふたりは美しく創造的な作品を生み出し永遠の輝きを追い求めた。

 愛の物語の第一幕は1895年に遡る。ダイヤモンド商かつ宝石細工職人の家に生まれたアルフレッド・ヴァン クリーフと、宝石商の娘、エステル・アーペルが出会い、結婚したことが始まりだ。

 ふたりは、お互いへの愛情はもちろん、革新する勇気や家族愛、そして宝石への情熱といういくつもの価値観で結ばれていた。

 1906年、愛し合うふたりはその名前を結び合わせ、現在も本店を構えるヴァンドーム広場の22番地に「ヴァン クリーフ&アーペル」をオープン。取引台帳の最初のページに記載されたジュエリーは、なんと“ハートのダイヤモンド”だったというから、まさに“愛のメゾン”の幕開けである。

 その後もふたりの愛の物語がインスピレーションの源となり、まるで抒情詩のように心揺さぶる数々の作品が卓越した職人技により生み出されてきた。その創造力は創業時より育まれ、今日の作品にも脈々と受け継がれているメゾンの真髄だ。

 1940年に初めて発表された、仲睦まじいつがいや家族の鳥を象った「ラブバード」や、「ロミオ&ジュリエット」の恋人たちなど、多くの作品が、実に詩情豊かに愛の物語を体現する。その一方で、ヴァン クリーフ&アーペルの作品群は、歴史的な愛にまつわる物語も彩ってきた。

 モナコ大公レーニエ3世は、1956年のグレース・ケリーとの結婚にあたり、ヴァン クリーフ&アーペルのウエディングセットを贈った。静謐に輝くプラチナに美しいパールとダイヤモンドが煌めくネックレス、ブレスレット、リング、イヤリングのセットは、大公から公妃への愛を象徴する作品である。

 また、このような同じ宝石やデザインで数点一緒に作られたジュエリー “パリュール”は、17世紀ごろから、王侯貴族が正式の場で着用するためにオーダーしてきた伝統がある。

 メゾンは後に“モナコ公室御用達”となり、婚約前からすでにメゾンの顧客であった公妃は、“アルハンブラ”や“アニマル クリップ”等の作品も日常的に愛用したという。

 他にも、ウォリス・シンプソンとの愛を貫くため、僅か11カ月足らずで王位を捨て、1937年に結婚を果たした英国王エドワード8世も、彼女のために数多のジュエリーをメゾンへ依頼した。名作“ジップ ネックレス”はウォリスが当時のアーティスティックディレクター、ルネ・ピュイサンに実現を促したとか。

 また、後の米国大統領、J・F・ケネディが、妻となるジャクリーンに婚約指輪として贈ったのは、エメラルドとダイヤモンドが配された“トワ エ モア”リング。ヴァン クリーフ&アーペルは創業以来、世界中で人を愛する想いの美しさを表現してきたのである。

2024.07.17(水)
Edit, Styling & Text=Mami Sekiya
Photographs=Kaz Arahama
Assistant Edit=Mai Ogawa

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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