一応の可決をもって国会の審議は終わった。だが、火種は燻り続け、いつ発火して炎上するかわからない。そこで私は、二〇二四年五月までの審議を記録して多くの人びとに知らせておきたいと思った。それが、本書執筆の第一の動機である。改正法は、二〇二六年春までに施行され、国民のすべてに適用される。施行に向け、できることはしないといけない。私はまだ不満なのだ。さらなる進展を望む。そうしなければ日本の縁切り文化に歯止めがかからない。本書を、そのための土台にしてほしい。

声なき声を拾い上げる

 私は国会が閉会したあとの二〇二四年七月から、北海道から沖縄まで、大急ぎで訪問調査の旅に出た。まずお会いしたのは、単独親権のもとで別居や離婚をして親子断絶となってしまった方々だった。彼らの悲鳴のような声は、このまま放っておいたら時代の流れに埋もれてしまいかねない。となれば、長年続いた法律の功罪を振り返る術を失う。私の敬愛する民俗学者の宮本常一さんの著作に『忘れられた日本人』(岩波文庫)がある。昭和の高度経済成長の中で、消え失せそうな古くからの文化を保持して逞しく生きる名もなき庶民の姿を活写したエッセイ集だ。この名著を遠くに見ながら、忘れてはいけない声をなんとか拾い上げようと努力したつもりだ。

 さらに、つらい胸の内を話してくださった方々に報いるべく、話の中で浮かび上がってきた問題には、専門家を訪ねて助けを借りながら解決の見通しを立てようとした。法学者、法社会学者、家族社会学者、心理学者、脳科学者といった分野の方々である。忙しい時間を割いて貴重な話を聞かせてくださったのに、紙幅の関係ですべてを収められなかったのは、ここでお詫びしなければならない。それでも、それぞれの声は私の血肉になった。だから本書は、声が書かせ、できる限りの声を収める構成になっている。

 貴重な証言を集める旅は、二〇二四年の暮れまで続き、大急ぎでそれをまとめた。まとめる過程で、私自身の家族のあり方を振り返ることにもなった。家族のあり方を考えるうえで、学生時代に出会ったフェミニズムやサル学にも言及している。

2025.06.10(火)