いまや夫婦の三組に一組が離婚する時代だ。毎年約一六万人の子どもが両親の離婚に直面している。
日本では、両親の離婚後はひとり親となるのが当たり前である。
子どもがいての離婚では、子どもは父と母のどちらかを選ばなければならない。その背景には、日本が一世紀以上にもわたって続けてきた単独親権という法制度がある。現状では親権のほとんどが女性親に行き、その割合は九割に迫る。しかし、それが決まるまでの過程は凄絶である。親権争いは離婚成立前から始まり、場合によっては子連れ別居にいたる。やがて子どもは、親権を得られなかった親だけでなく、その祖父母、親族とまでも疎遠になってしまう。
夫婦の争いによって、子どもが本来結ぶはずであった人と人とのつながりを絶たれる“縁切り”が行われてきたのだ。
不幸のガラパゴスにおける最大の被害者
一九六〇年代のことになるが、アメリカの心理学者たちが「ストレス・マグニチュード」ということをいい始めた。長い人生の中で起こり得るさまざまなライフイベントが、心に与える震度、衝撃の大きさを計算したものである。それによれば一位は配偶者の死で、離婚は五位である。
調査結果の発表からずいぶん時間がたち、日本でも離婚が珍しくない時代だから、心の痛手を共有し合える人に出会う可能性は高く、震度の順位はもう少し下がるのかもしれない。それでも、孤独の中で痛みを抱えるとなったらたいへんだ。なお悪いことに、諸外国が共同親権を認めるなか、日本の離婚の方式は単独親権という特異なやり方でなされ続けてきた。しかも離婚の九割は、離婚届に形式的に必要事項を書くだけで成立する協議離婚である。協議とは名ばかりで夫婦間の取り決めはほとんどされていない。
かくて日本は、離婚と離婚後の親権に関していえば、完全なガラパゴスとなった。危機に直面しても幸福な復元を実現する特異な進化をしてきたなら世界から称賛されるだろうが、実際はまったく逆で、不幸を増長する進化をしてきてしまったのだ。
2025.06.10(火)