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 ラジオでの相談回答数はなんと2000件超え。今やすっかり人生相談の名手となっているジェーン・スーさんと、もはや相棒といえる存在の堀井美香さん。

 ふたりの軽快なクロストークは幅広い層に人気で、Podcast番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」では、ふたりが本音を交えて繰り出す、ユーモアと深みのある回答がリスナー(通称「互助会員」)を魅了している。

 ふたりが読者のお悩みに答えます!


【相談】すぐ泣く新人の教え方がわからない

【お悩み】
新人の指導をする機会が増えたのですが、教え方に悩んでいます。他のスタッフと雑談をまったくしない20代前半の新人。最初の頃は緊張してるのかなと思っていましたが1年経とうとする今も態度は変わらず。話しかけると返事は笑顔でしてくれるのですが、注意したり(これはここが大事だから間違えるとこう大変なんだけど間違えてたから気をつけて、という言い方)、新しい業務を教えようとする(そろそろ新しいことやってみたくない? やってみたいことはある? という言い方)と、必ず泣いてしまうのでどう話しかけたらいいか悩んでいます。
(39歳・女性・最近腰が痛むようになったアラフォーさん)

スー 最近の会社の査定基準は、単に売上や成果を上げたりする業績評価だけではなくて、「部署から病人を出さない」という安全配慮義務も、評価の軸の一つになってきています。部下がうつ病や適応障害になったとあれば、上司の昇進は難しくなる。そうなると、誰も部下を厳しく指導しなくなるんです。だからこそ、今の20代前半の子たちが本当に不憫だと感じています。

 彼らは基本的に、子どもの頃から理不尽なことで強く否定されるような経験をせずに育ってきています。それはとても幸せなことで、人生ずっとそのままでいければ良いんですけど、20代で社会に出た途端に、社会の現実と向き合うことになる。このままマインドセットを変えずにいると、数年後には、自分で考えて動けない30歳がたくさん生まれてしまう可能性があります。そうすると、企業もそうした人材の雇用に慎重になると思うので、私たちの頃の「フリーター」のような状況になることも考えられる。ただ、勘が良くて「わかっている子」もいるんですよ。

 怒られないからってこのままでいたらダメだと気づいて、自分から積極的に質問したり、学びに行ったりする。そうすると、先輩たちはそういった子だけを重点的に指導することになります。結果として、社員の能力に大きな格差が生まれてしまうんですよね。

堀井 私は、職人が多く厳しい指導の中で育つところからキャリアをスタートさせて、ちょうど管理職になった頃に働き方改革が始まり、部下と1on1や雑談などを行うことを求められた最初の世代です。フィードバックの仕方や、「褒めて叱る」のような指導法を教わりました。もちろん、それを実践しようと努力しましたが、スーちゃんが言ったように、差を感じることはあったな。こちらも全員に細かく声をかけるのは難しくて。自分から積極的に来てくれる子にはアドバイスできる一方で、まったく距離が縮まらない子もいる。そうすると伸びる子と伸びない子は明確ですよね。

スー 本当に残酷な現実ですよ。特に若い人たちには、このことを知っておいてほしいですね。

堀井 今は、ひとりの若い子を部署全体で育てるという、少し非効率なことをしているんですよね。今回のケースでは、相手がコミュニケーションに慣れていない、という側面が大きい。それでも、部下を育てていく義務はあるでしょうから、原因をきちんと聞いて、早めに改善できるようにサポートしてあげるのが良いと思います。そうしないと、今度は「あの人から嫌なことを言われた」と予期せぬ形で責任を問われる可能性もありますからね。

スー 学校はお金を払って教育を受ける場所だけど、会社はお金をもらう代わりに働く場所。その時に、指導されて泣いてしまうとしたら、その方は本来「働き手として、十分に貢献できていないのかもしれない」というマインドセットが必要だと思います。どうしても感情的になってしまって、仕事がうまくいかないとしたら、その仕事自体が向いていないのかもしれないから。だけど、どうやって気づいてもらうかだよね。

堀井 指導する側としては、「どういう言い方をしてもらったら、あなたは受け止めやすい?」といったリクエストを、あらかじめ本人に確認しておくのも有効かもしれません。「こういうやり方なら大丈夫なんだね」と、意思疎通を図ることも大切かも。

スー つまり、指導する前に本人に確認を取った、という「形式」を作るってことだよね。

堀井 そう、先々のリスク管理のためにも。そういった一見遠回りに見えるようなコミュニケーションまですることが今の時代は必要なんだと思う。あとは、話した内容はその人の目の前で簡単にメモに残しておくとか。「今、私たちの間でこういう話になった」と示せるし、記録があると後々誤解を防ぐことにもつながるから。

 今は、一人ひとりに合わせて「オーダーメイド」の人材教育が求められています。相談者さんは、その中で本当に良くやられていると思います。指導する側としては負担が多いと思うけど。仕事の内容だけでなく、コミュニケーションの取り方まで教えなくてはいけない時代になった、ということですね。働き方や人材教育の考え方はどんどん変わっていくから、私たちの考えもアップデートしないといけないよね。

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ジェーン・スー

1973年、東京都生まれ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、Podcast番組「となりの雑談」パーソナリティとして活躍。近著に『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)、『へこたれてなんかいられない』(中央公論新社)などがある。

堀井美香(ほりい・みか)

1972年、秋田県生まれ。2022年3月にTBSを退社しフリーランスに。様々な番組・CMでナレーションを担当する一方、自ら朗読会を主催するなど、多方面で活躍する。初主演を務める舞台『フェードラ―炎の中で―』が6月26日より東京・水戸で上演予定。

Podcast「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」

毎週金曜日の夕方5時に配信。TBSラジオが制作するPodcast番組。飾らないトークで女性たちの支持を集め、月間リスナー約80万人の人気番組に。2025年3月には日本武道館でイベントを開催し、約8000人を動員した。

衣装クレジット

ジェーン・スー ジャンプスーツ 99,000円/シンヤコズカ(ザ・ウォール ショールーム) シューズ 64,900円/ビィウィッチ ピアス/スタイリスト私物

堀井美香 ドレス 29,700円/ヌキテパ(パサンド バイ ヌキテパ) ネックレス 23,100円/フミエ タナカ(ジャーナル スタンダード レサージュ 丸の内店) シューズ 25,300円/オデット エ オディール(オデット エ オディール 新宿店)

オデット エ オディール 新宿店

電話番号 050-8893-4165

ザ・ウォール ショールーム

電話番号 050-3802-5577

ジャーナル スタンダード レサージュ 丸の内店

電話番号 03-5860-3215

パサンド バイ ヌキテパ

電話番号 03-6427-9945

ビィウィッチ

電話番号 03-5726-9750


 「40歳を目前に、何もない自分に絶望する」「母のようになれない私はどうしたら……」「すぐ泣いてしまう新人への接し方は?」「突然、古着を送ってくる親戚に困っている」など、続きは「CREA」2025年夏号でお読みいただけます。

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2025.08.22(金)
文=綿貫大介
写真=尾身沙紀(io)
スタイリング:佐藤里沙(BE NATURAL)
ヘアメイク=藤原リカ(スーさん/Three PEACE)、yumi(堀井さん/Three PEACE)

CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

1冊まるごと人生相談

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母娘問題、職場の人間関係から、性やお金の悩みまで。
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定価980円