江戸時代後期に活躍した浮世絵師、葛飾北斎。日本美術や漫画、アニメなどに多大な影響を与えただけでなく、北斎の作品は海を渡りゴッホやモネなど印象派の画家にも大きなインスピレーションをもたらしました。

 生涯3万点を超える作品を描き上げた北斎は、どんな風景を見て感じていたのでしょうか。北斎の見た風景を、視界全体に広がるダイナミックな映像表現で追体験できる没入型展覧会『HOKUSAI : ANOTHER STORY in TOKYO』が東急プラザ渋谷にて開催中です。

北斎と「冨嶽三十六景」

 90歳で絶筆するまでの間に手がけた多様なジャンルの作品群、その中でも北斎の代表作といえるのが「冨嶽三十六景」です。

 富士山というたった一つの題材でこれほどのバリエーションをよくぞ描けたものだというくらい、あらゆる角度を探り、庶民の暮らしを巧みに取り入れながら、富士と波、富士と風、富士と雲......など自然の表現を突き詰めた北斎。

 『HOKUSAI : ANOTHER STORY in TOKYO』では、そんな「冨嶽三十六景」(三十六景だが実際は四十六点存在)にフォーカスし、北斎が捉えた感覚の再現を試みています。

 『HOKUSAI : ANOTHER STORY in TOKYO』では、あらゆるエリアで没入型コンテンツが用意されています。

北斎が感じた音と動きを追体験する「大地の部屋」

 部屋の壁と床一面に大迫力で映し出されているのは、霞の向こうにそびえる富士と水辺に舞う鶴、広がる水面が描かれた作品「相州梅澤左(そうしゅううめざわのひだり)」。

 ここでは実際に、鶴の羽ばたく音や水面を歩いた時のぽちゃぽちゃという音が聴こえて、水たまりを歩くような感覚も足裏に伝わります。それが楽しくて思わず何度も足踏みを。

「相州梅澤左」のほかにも、富士と人々の営みを描いた「礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)」など三図が映し出され、それぞれの音と感触を楽しむことができます。

2025.02.28(金)
文=上野 郁