北斎が訪れた土地の風を感じる「風の部屋」

 紙や傘を吹き飛ばす突風、風をはらんだ船の帆.....北斎は絵の中に様々な風の情報を仕込んでいたといいます。

 先端の風制御技術で北斎が感じた風を再現するゾーン「風の部屋」。ここでは、「冨嶽三十六景」から風を感じる八図が大スクリーンに映し出され、それぞれの土地の風を感じることができます。

 遠江・駿河から甲州へ、江戸へ飛んで木更津沖へ。映し出される地域に応じて風の吹く向きが変わり、海沿いはやはり風が強いなと感じていると、場面が刻々と変化して凧がのんびりゆらり飛んでいたり。ひとところに居着くのを嫌ったという北斎は、さまざまな土地の風を感じ筆をふるっていたのだなと思い巡らせます。

大いなる自然に圧倒される「北斎の部屋」

「冨嶽三十六景」の中でも最も有名な作品といえるのが、新千円札の図柄に選ばれたり、グレートウェーブの名で海外でも大きな評価を得ている「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」。

 波の躍動感や立体感は絵で見ても迫るものがありますが、ここ「北斎の部屋」では先端技術によって圧倒的リアリティをもって目の前に立ちはだかります。映像、音、風、振動この迫力が本当にすごい! 荒波にのまれそうな感覚に陥って、少し恐怖を感じるほど。この絵に描かれる船に載る漁師たちはどれほど恐ろしかっただろうかと想像してしまいます(波の高さは10〜12mくらい、4階建てのビルの高さくらいだそう)。

 美しさだけでなく恐ろしさも持ち合わせている自然の姿をありありと描いた北斎。ここでは北斎が切り取った一瞬の世界を五感で感じ、北斎の頭の中に入り込むような体験をすることができます。

2025.02.28(金)
文=上野 郁