この記事の連載
- 松本隆と歩くぼくの風街 #1
- 松本隆と歩くぼくの風街 #2
- 松本隆と歩くぼくの風街 #3
- 松本隆と歩くぼくの風街 #4
- 松本隆と歩くぼくの風街 #5
- 「ゆ・れ・て湘南めぐり」松本隆と歩くぼくの風街 #6
「これは初めてのネタばらし」
海辺の恋は?
「あったかもね(笑)。でも、夏の恋だから。秋になると別れちゃう。それで歌ができるわけだ」
なるほど。じゃあ、やっぱり、松本さん自身の体験を重ね合わせつつ?
「もちろん、それをそのまま書くわけじゃないよ。あくまでイメージ。ただ、ぼくは、そういったネタは全部中高、大学生ぐらいまでのことがベース。それをちょっとずつちょっとずつ使って80年代末まで乗り切った。だからその後はスッカラカンになったけどね(笑)」
壊れかけたワーゲンの
ボンネットに腰かけて
何か少し喋りなよ
静かすぎるから
海が見たいわって言い出したのは君の方さ
降る雨は菫色 Tシャツも濡れたまま
wow wow Wednesday
――「雨のウェンズデイ」(作曲:大滝詠一)
一色海岸は大学生時代によく訪れたと松本さんは言う。
「その頃、細野さんと一緒にバーンズというアマチュアバンドをやっていて。夏になると海の家でよく演奏してたんだ。客なんて4~5人しかいなかったな(笑)。だから、『雨のウェンズデイ』に出てくる『壊れかけたワーゲン』はバーンズのメンバーの愛車がイメージになってる」
大滝さんのサウンドもあいまって、ハワイのような、南国リゾート地のワーゲンをわたしは想像していたけれど、「長者ヶ崎の駐車場だから」と松本さんは笑った。
「だいたい、専業作詞家になってからは、どこかへ遊びに行く時間なんて全然なかった。『明日の朝までに1曲お願いします』ということの連続だから、そういった学生時代の経験や記憶を小出しにして切り貼りして想像を膨らませるしかなかったんだ。じゃあ、もうひとつ、面白いネタばらしをしてあげようか。松田聖子の『マイアミ午前5時』(83年)の舞台はどこだと思う?」
え、マイアミ……じゃないんですか?
「ふふふ」
海辺の三叉路を横切って
タクシーだけ待ってたの
(中略)
マイアミの午前5時
ブルー・グレイの海の
煙るような夜明けを
あなたも忘れないで
――「マイアミ午前5時」(作曲:来生たかお)
「あそこだよ」
と、松本さんが指さす方向を見ると、葉山御用邸前の三叉路が。ああ、確かに! 歌の通り「海辺の三叉路」がそこにはある。
「とうとう言っちゃった。これは初めてのネタばらし(笑)」
聖子ちゃんファンにとっては『スラムダンク』なみの聖地になってしまうかもしれませんね。
「あはははは」
松本さん、ほかに聖地はありませんか。この際ですからめぐってしまいましょう。
「じゃあ、これよりもう少し先、秋谷海岸まで足を延ばしてみようか」
2024.11.16(土)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖