みんな口々に返事をする。御子柴さんは、本当に看護師たちをまとめるのがうまい。香坂師長がピリッと引き締め、御子柴主任が穏やかに和ませる。実にうまくできた関係性だと思う。
師長がいない不安や病状を心配する気持ちも、御子柴さんがいてくれれば大丈夫、という安心感で覆われている気がする。やっぱりすごい人だな、と尊敬の念がわき起こる。同時に、香坂さんへの心配が拭いきれない。
あの男はいったい……。
考えても仕方のないこと。
わかっているけれど、どうにも心が波立つ。ふーっと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。今は、今日一日の患者さんへのケアに集中しなければだめだ。自分に言い聞かせ、ナースステーションを出た。
「卯月さん、ひどいじゃないですか!」
桃ちゃんが突然大きな声を出したのは、一週間ほどたった日勤の午後だった。いつものように面会に来た桃ちゃんは廊下で私を見つけた瞬間、大きな声をぶつけてきた。
「え、どうしたの?」
桃ちゃんは、唇をかんでいた。みるみるうちに目のふちが赤くなり、大きなかわいらしい瞳がうるんでいく。
「こっちでお話ししましょう」
大きな声を出していては、まわりの患者さんやご家族の迷惑になってしまう。ゆっくり話を聞くために、私は桃ちゃんを面談室にうながした。桃ちゃんは私をにらみつけるような目で見ながらも、あとについて部屋へ入った。
桃ちゃんは面談室の椅子に座って、かばんをぎゅっと抱えている。
「……大ばあばのことです」
「うん。繁森さんのことだよね?」
心当たりはない。でも、医療者の無意識の行動がご家族にショックを与える場面はあるかもしれない。私は八年も看護師をしているから、看護師としての常識がご家族には通用しないときがあるかもしれないと理解していたつもりだった。でも、桃ちゃんに怒鳴られるようなことは思いつかない。
「卯月さんは、大ばあばが死んでもいいと思っているんですか!」
それは想像していない言葉だった。まっすぐな視線にいすくめられる。
2024.11.08(金)