6年がかりで製作した主演映画が公開

――『SUPER HAPPY FOREVER』の製作、「舞い上がれ!」の出演と並行して、『町田くんの世界』(19年)、『愛にイナズマ』(23年)、『本心』(24年)と、石井裕也監督作に3作出演しています。

 石井監督は意識して、僕を呼んでくださっているのか分からないですが、僕の中では、少しずつ、でも着実に役が大きくなっている気がしています。石井監督は、毎回要求される演出内容が違っていて、まったく読めないんです。

 居酒屋のシーンに出てくる詐欺師グループの一人を演じた『愛にイナズマ』では、4人のうち2人が素人の方だったこともあり、そこでのアドリブなどが難しかったことを覚えています。

――ふたたび、『SUPER HAPPY FOREVER』のお話に戻ります。パイロット版(短編)から日本とフランスの助成金を得て長編の製作へと発展した本作では、妻を亡くしたばかりの佐野を演じられています。

 「舞い上がれ!」の撮影後ぐらいのタイミングで、パイロット版と長編のシナリオが完成し、それを持って、いろいろなところへ話を持っていき、長編の製作に繋げていきました。僕は奥さんを亡くした経験はないこともあり、そこはあまり考えないようにして、現場の空気を掴みながらやっていくことを心がけました。

 役名など、五十嵐監督が僕のパーソナリティを落とし込んでくれた作品の中で、意識したのは奥さんを亡くした佐野の疲労感を出すということ。あえて、歩いたり、モノを取ったりするスピードを遅くしています。

――「舞い上がれ!」で佐野さんの存在を知った方に向けて、『SUPER HAPPY FOREVER』では、どのような佐野さんが見られる作品だと思いますか?

 今回は青春期が終わった大人たちの物語ですから、全然お調子者じゃないです(笑)。だから、まったく違う僕の一面を見られると思いますが、水島と共通する愛らしさみたいなものは垣間見られるかもしれません。人生の中で6年もかけて、映画製作するような経験は、この先ほとんどないと思うんです。

 だからこそ、とても大きな財産になりましたし、協力してくださった方には感謝しかないです。それと同時に、自分たちからやりたいことを行動に起こせば、どんなに時間がかかっても、なにかしら形になることは分かったので、今後も機会があれば、1からモノ作りをしてみたいです。

2024.10.25(金)
文=くれい響
写真=平松市聖