「ええ、勿論です」

 ――何故だか、ひどく聞き覚えのある声がした。

「知っているどころか市柳さんとは、幼馴染みと言って差し支えのない関係だったのですよ。まあ、先輩後輩となってしまった以上、今までのように気安くは出来ませんが」

 信用のおける方が同室でよかったと、のんびりとした笑いが響く。その声に喚起されて、忘れたくても忘れようのない記憶が蘇った。

 容赦なく打ち据えられた痛みと、降りかかる罵倒の数々。判で捺したかのように変わらない笑顔に、気が狂ったかのような笑声のけたたましさ。

 ひょっこりと、茂丸の陰から、市柳の悪夢が顔を覗かせた。

 茶色味を帯びた猫っ毛に、これと言って特徴のない、どこにでもいるような面差し。人畜無害そうな表情を裏切る、狡賢く光る恐ろしい双眸(そうぼう)

「ご無沙汰しております、市柳さん。改めまして、垂氷(たるひ)雪哉(ゆきや)です」

 これからよろしくお願いいたしますね、と。

 輝くような笑顔で告げられた言葉に、市柳は絶叫した。


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2024.09.27(金)