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カナは最低? 厄介? こんな女がもっと映画に出てきてほしい

 嘘をつき、浮気をし、あげくのはてに暴力という手段に出るカナの生き方は、倫理的に絶対に正しくない。けれど、これほど悪意に満ち、騒々しい日常のなかで、人はどう正気を保てるというのか。この映画が映し出すのは、ひとりの女性が少しずつ壊れていく様であると同時に、私たちが生きる世界の歪み、そのものだ。

 この映画を見る人たちは、カナという女性をどう見るだろう。最低なやつだと反発を感じるだろうか。むかつくやつだと怒りを抱くだろうか。たしかに彼女は厄介で、手に追えない、どう捉えていいか困ってしまう人ではある。でも、女性の作り手による、女性の姿を写した映画が徐々に増えてきた今、男たちと同じくらい、いやそれ以上に多様な女たちの姿がもっともっとあっていいはずだ。

 清く正しく美しく、私たちをエンパワメントしてくれる女たちとは違う、全然正しくなくて、ずるくて、厄介な女。そんな人たちが画面を埋め尽くすようになってほしい。少なくとも私は、この映画を見終わったあと、手足をぶらぶら振り回し、みっともなく、街を闊歩してみたくなった。

『ナミビアの砂漠』
9月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

河合優実 
金子大地 寛一郎
新谷ゆづみ 中島 歩 唐田えりか
渋谷采郁 澁谷麻美 倉田萌衣 伊島 空
堀部圭亮 渡辺真起子
脚本・監督:山中瑶子
製作:「ナミビアの砂漠」製作委員会
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
https://happinet-phantom.com/namibia-movie/

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Column

映画とわたしの「生き方」

日々激変する世界のなかで、わたしたちは今、どう生きていくのか。どんな生き方がありうるのか。映画ライターの月永理絵さんが、毎月公開される新作映画を通じて、さまざまに変化していく、わたしたちの「生き方」を見つめていきます。

2024.08.31(土)
文=月永理絵