この記事の連載

 日々激変する世界のなかで、わたしたちは今、どう生きていくのか。どんな生き方がありうるのか。映画ライターの月永理絵さんが、毎月公開される新作映画を通じて、さまざまに変化していく、わたしたちの「生き方」を見つめていきます。

 今回は9月6日公開の映画『ナミビアの砂漠』から、「正しくなく生きる」ことについて。

あらすじ

美容脱毛サロンで働く21歳のカナ(河合優実)は、優しい彼氏のホンダ(寛一郎)と同棲しているが、一方で、最近知り合ったハヤシ(金子大地)との仲が深まりつつある。やがてカナはホンダと別れ、ハヤシとの生活を開始。だがふたりの生活は徐々にすれ違い、カナの心は次第に安定を失っていく。2017年に初監督作『あみこ』で大きな話題を呼んだ山中瑶子監督最新作。カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。


一緒にいると苦労するタイプの女

 彼女は、長い手足をぶらぶら振り回し、少し猫背気味で歩く。足をずるずると引きずり、かと思えば、唐突に飛び跳ねる。その姿を目にした瞬間、これは最高の映画だと思った。人からどう見られるかとか、手足が他人にぶつかるかもなんて、気にもしない。画面のなかで、これほど自由に、自分勝手に歩く若い女の姿を初めて見た気がする。

 山中瑶子監督の最新作『ナミビアの砂漠』で河合優実が演じるカナという女性は、その歩き方が示すとおり、だらしがなく気まぐれだ。同棲中の恋人がいながら別の男とも同時につきあっていて、酔っ払って夜遅くに帰ると、家のトイレで吐きまくったあと、化粧を落とさず、服も着替えず、ベッドにばたりと倒れ込む。朝起きれば冷蔵庫にあるハムにそのままかぶりつく。

 そんな彼女を甲斐甲斐しく世話するのは、彼氏のホンダ。実はカナが浮気相手のハヤシと会ってきた後だとは気づかずに、トイレにかがみ込んだ彼女の髪を持ってあげ、ていねいに服まで脱がせてあげる。

 カナの喋り方がまた最高だ。男相手に「あんた」とか「おまえ」と呼び、馬鹿にされれば即座にくってかかる。平気な顔で嘘をつき、泣いている相手を見ても「変な人」とつぶやくだけ。ささいなことで怒り、思ったことはすぐに言葉にする。感情のままに動く彼女は、どう見ても、一緒にいるのに苦労するタイプだと思う。

2024.08.31(土)
文=月永理絵