この記事の連載

 日々激変する世界のなかで、わたしたちは今、どう生きていくのか。どんな生き方がありうるのか。映画ライターの月永理絵さんが、映画のなかで生きる人々を通じて、さまざまに変化していくわたしたちの「生き方」を見つめていきます。

 今回は、6月13日(金)から全国ロードショーの映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』に注目。

あらすじ

ゲイであることを周囲に隠して生きるフンスと、「男関係が激しい」と噂されるジェヒ。同じ大学で出会ったふたりは、いつしか意気投合しルームシェアを始める。だが享楽的な日々を楽しんだ20代が終わり、30代になった彼らの関係は徐々に変わり始める。韓国の新世代作家として人気を博すパク・サンヨンの小説『大都会の愛し方』に収録した一編をイ・オニ監督が映画化。キム・ゴウン、ノ・サンヒョン主演。

恋愛やセックスにまつわる話まで…

 一昔前、アメリカのラブコメ映画では、主人公の女性の親友として、ゲイ男性のキャラクターがよく登場していた。いつもおしゃれや恋愛のアドバイスをくれて、絶対に恋愛には発展する心配がない男の友人。『セックス・アンド・ザ・シティ』のキャリーに親友スタンフォードがいたように、魅力的な「ゲイの親友」は私たちを楽しませてくれたけれど、ある意味では、女性に都合のいい存在として映画やドラマのなかで利用されてきたと今では思う。主人公が異性との恋に夢中になっていたとき、親友の彼の人生はどんなふうに動いていたのだろう。

 同性愛者の男性フンスと異性愛者の女性ジェヒを主人公にした韓国映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』は、一見これまでの「ヒロインとゲイの親友」の系譜に沿う設定に見えるが、全く別の形としてふたりの関係を見せてくれる。原作は、ゲイ男性の主人公が、過去に出会ってきた様々な人とのエピソードを中心に綴った連作小説。韓国ではクィア文学として人気を博しドラマ化もされたが、イ・オニ監督による映画では、連作小説のうち主人公と女性の親友をめぐる話に焦点をあて、フンスとジェヒというふたりが紡ぐ13年間が描かれる。

 互いの恋愛やセックスにまつわる話から、恥ずかしい失敗やつらい過去も打ち明け合うフンスとジェヒは、いろんなものを共有しながら共同生活を送っている。二日酔いに苦しみながら迎え酒をし、ひとつの鍋で食事をする。ジェヒはフンスのカミソリで脚のムダ毛を剃り、フンスはジェヒのBPクリームを愛用する。元々はフンスが大好きだった冷凍ブルーベリーがいつの間にかジェヒの好物にもなったように、ふたりの生活が区別できないほど混ざり合っていく様がひたすら楽しい。

 かといって、似たもの同士というわけではない。性格から人付き合いの仕方まで、彼らは正反対の人間だ。あけっぴろげで、他人から自分がどう言われようと気にしないジェヒに対し、フンスはゲイであるとバレないよう周囲の視線を気にしてやまない。恋愛においても、感情的な繋がりを要求する相手を拒絶し、気楽な関係しか築こうとしない。一方のジェヒは、毎回付き合う相手に本気で夢中になる。でもほとんどの場合、相手は彼女を遊び相手としてしか扱わず、失恋の回数ばかりが増えていく。フンスの言葉を借りれば、ジェヒは男の趣味が悪いのだ。

2025.05.31(土)
文=月永理絵