この記事の連載

 映画ライターの月永理絵さんが、新旧の映画を通して社会を見つめる連載。第11回となる今回のテーマは、「性的同意」。

 フランスで大きな衝撃を呼んだ書籍をもとにした映画『コンセント/同意』(8月2日公開)と、全国公開中の『HOW TO HAVE SEX』。

 未成年者との合意のうえでのセックスは、暴力か? そもそも何をもって「同意」とするのか? 私たち一人ひとりが考えるべき課題です。


フランスで大きな衝撃を呼んだ一冊の書籍

 2023年、日本で性犯罪に関する刑法が改正され、「強制性交罪」が「不同意性交罪」に変更された。「同意なき性交」は犯罪である、という事実が明確になったのは、喜ばしいことだ。ただし、同意がなかったことをどう証明するのかなど、曖昧な部分は残されたままで、課題はいまだに大きい。性的同意をどう判断するのかについては、とてもデリケートで難しい問題を孕んでいると思う。

 2020年1月、一冊の本がフランスで出版され、大きな衝撃を呼んだ。編集者で作家のヴァネッサ・スプリンゴラの著書『同意』(内山奈緒美訳、中央公論新社)。

 著者のスプリンゴラは、14歳のときに、フランスの著名作家ガブリエル・マツネフと性的関係を持ち、さらにマツネフによってその関係を小説に書かれ世界に公表されるという経験をしている。本書は、作家マツネフによる性的支配の実態を、被害に遭ったスプリンゴラが自らの手で綴り、告発した本なのだ。

 映画『コンセント/同意』は、この書籍をもとにつくられた。監督のヴァネッサ・フィロが公式のコメントで「本作は、ヴァネッサ・スプリンゴラの戦いの延長線上にあるもの、声を上げた彼女の戦いを終わらせないためにある」と述べているように、映画は本の内容を忠実に映像化している。

 ひとりの少女が、どんなふうに狡猾な捕食者に狙われ、心身ともに支配されるのか。10代のときの性体験がその後の人生にどんな影響を与えるのか。目を背けたくなるような痛ましい記録が、映像としてまざまざと再現される。

文学少女と偉大な作家の“恋愛関係”

 複雑な家庭環境で育った13歳の少女ヴァネッサは、ある夜、母親に連れていかれたパーティーで、作家のガブリエル・マツネフと出会う。50歳のマツネフは自作のなかで10代の少年少女との性行為を公言する悪名高き人物だったが、まだ幼い文学少女には偉大な作家としか見えていない。マツネフは、自分を憧れの目で見つめる少女に狙いを定め熱烈なアプローチを開始する。誰も相談相手がいないヴァネッサは、14歳になった頃、ついに彼の要求を受けいれ、性的関係を持つようになる。だが、その有害な関係が徐々に彼女の心を壊していく。

2024.07.31(水)
文=月永理絵