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「性的同意」は免罪符にはならない

 ヴァネッサ・スプリンゴラとジュディット・ゴドレーシュ、文学界と映画界それぞれの告発は、大きな問いを私たちに投げかける。権威を持つ中年男性が14、5歳の少女と「恋人」であることに、誰も疑問を持たなかったのか? 大人と未成年のセックスが違法行為であったにもかかわらず、当時から現在までなぜ誰もその異常さを指摘しなかったのか?

 当時のフランスでは、人々があらゆる抑圧や支配から解放され、自由を求めることが何より正しいとされた風潮があったのかもしれない。未成年者であろうとセックスを求める権利はある。実際、彼女は「同意」していたじゃないか。何も無理やり襲ったわけじゃない。それが、捕食者たちの言い分であり、多くの人々が彼らの関係を容認していた理由なのだろう。

 でも、彼女はたった14歳だったのだ。性体験どころか、恋愛経験もほとんどない、幼い子供だったのだ。何十歳も歳上の男と関係を持ち、その関係を世間に晒されたあと、自分がいったいどんな人生を歩むことになるのか、14歳の子供に理解できるはずがないではないか。

 大人と子供との間には圧倒的な力の差がある。名のある芸術家(監督、作家)と、俳優や小説のモデルにされる女性との関係には明らかな権威勾配がある。『同意/コンセント』は、もっとも罪深いのは暴力をふるった加害者だが、それを見過ごしてきた周囲の大人たちにも罪があるのだと明言する。そして、「性的同意」とは必ずしも免罪符にはならないのだと教えてくれる。

10代のうちに初体験を終わらせたい

 時期を同じくして、日本では「性的同意」をめぐる物語を描いた映画『HOW TO HAVE SEX』(モリー・マニング・ウォーカー監督)が公開されている。イギリスから、ギリシャのクレタ島に卒業旅行でやってきた仲良し3人組を主人公にしたこの映画は、ヴァカンスに浮かれる10代の少女たちの熱狂を描きながら、その裏で、夏の間に初体験を済まそうと焦るある少女の心の動きを繊細に捉えていく。

2024.07.31(水)
文=月永理絵